『緑のなかに四人隠した。俺も離れてみている。うしろにある築山のコンクリートパイプを見てみろ。』

池袋のキングが寝そべって手を振っていた。
俺も優しく振り返す。

「わかった、これで準備はできた。あとは待機だ。」

俺は公園の時計と自分の携帯のディスプレイ時計を確認した。
午前二時まであと二十分。




公園の外で車の音がしたのは、約束の五分前だった。
人影がぞろぞろと園内にやってくる。
素早く数を数える。全部で四人。

全員男でハルナは居ないようだった。
自信満々の口ぶりでカズマがいった。

「よう、悠、良く逃げないで、やってきたな。別にハルナと付き合っていたわけでもないんだろ。」

俺は三人の男たちを観察した。
カズマのパンク風のファッションとはテイストがまったく違う。

ジーンズにラフなトレーナーやジャージ。
どういう関係だろうか。友人には見えなかった。

カズマがいった。

「やっちゃってください。寺内さん」

寺内と呼ばれた男が苦々しい顔をした。

「おまえ、簡単に人の名前を出すなよ。これから締める相手に聞かれてるだろうが」

口調でわかった。
荒事のために金で雇われた男たちだ。

「お前たち、そんな間抜けなガキに使われるのはよく無いぞ。そいつがなにをしたか、きいてるのか。別れた女のヌード写真をもとに、金を恐喝するような男たぞ。」

男たち三人は尻ポケットから、手袋を出した。格闘技で使う革の手袋のようだ。
こぶしを痛めるのが嫌なのだろう。
寺内がいった。

「どうしようもない。おれたちもこいつのことはよくしらない。ネットで出会い、金をもらって、誰かをはたく。それが仕事なんでな、悪く思わないでくれ。」

そういうことなら、遠慮することもないだろう。

俺は右手で胸をたたいた。
植え込みの中から、大垣が飛び出してた。
すり足で近づいてくる重戦車だ。

三人の男たちは平均的なサイズ。ネットの黒いなんでも屋の間に動揺が走った。

俺は頬の肉を揺らしながら、ブルドックのように駈けてくる大垣に叫んだ。

「ふたり、頼む。ひとりは俺が喰うから」

池袋のキングに夜遊びを覚えた優等生の後輩が見ているし、手を抜くわけにはいかなかった。

立ちまわりは得意じゃないんだが……三人で
ひとりを襲うというやり口が気にいらなかった。

俺はリーダーの寺内にむかっていった。
誰かが叫んでいる。

「うおおぉーー!!」

巨大なハイイログマの雄たけびだった。
俺の足が止まってしまっていた。
大垣は人の形をした竜巻のようだった。

最初に犠牲になったのは一番右端にいた男。
小走りで近づいてきた大垣が男の襟をつかんだと思った瞬間、男の身体は跳ね上がっていた。

大垣の右足も空をさしている。
見事な内股だ。

地面にたたきつけられた男は立ち上がってこない。受け身を取ることなど不可能なスピートだ。

そのまま歩みをとめることなく、俺がやろうとした寺内にむかった。
今度は軽く右足をだして、リーダー格を投げつけた。

隅落としだろうか。
速すぎて、どんな技なのかもわからない