そのあとハルナからカズマとの出会いと恋の始まりと終わりを延々と聞かされた。

真夜中のクラブで出会い、夏の盛りに最高潮になり、秋になって終わったという女性週刊誌的なストーリーだ。

ありふれている。
最後にハルナはいった。

「今回の事はうちの父親には世話になりたくないんだ。だから、絶対にナイショナの。わたしの力だけでなんとかしたい。」

珍しく真剣な顔つきをしたハルナが唇を噛んでいた。

「どうして」

「うちはわたしが子どものころ母親が死んで、ずっと父親が育ててくれたんだ。男でひとつっていうの、わたしは大嫌いな言葉だけど。うちの父親は王様みたいに偉そうで、人の事をコントロールしようとしてばかりいるけど、感謝しているところもある。だから、わたしは父親の手を借りないで、すっきり解決したいんだよ。」

「そうか」

誰もが誰かの娘や息子であるというのは、真実だった。
目のまわりが真っ黒で、SM好きの女の子でも、それは変わらない。

それではこの事件を受けるかどうか迷っていたが、最後の話でやる気になった。

そこで、俺たちはようやく携帯の番号とメールアドレスを交換した。
なんだか不思議だよな。

あの何桁かの数字を交換しないと、人とであった気がしないなんて。

コインパーキングの隅で立ちあがり、軍パンの尻をはたいた。
池袋の夜空には地上の明かりを映した虹色の雲が動いている。

「俺たちは帰って寝るけど、そっちはどうするんだ。」

ハルナも立ち上がった。
ヒールをはいているので、俺とたいして背が変わらなかった。

「クラブに戻ってオールする」

「そうか楽しんで来いよ。でも、今度は変なS男に引っ掛からないようにな。」

なんだか名残惜しげな顔をして、ハルナがうわ目づかいに俺を見た。

「ねぇ、せっかくだから、悠も踊らない?」

俺はもう音楽では踊らなかった。
静かに聞いているだけで十分。

「いいや、明日も学校があるし、後輩を送らないといけないからな。困ったら、すぐに連絡を入れるんだぞ」

ハルナは地下へ下りる階段に歩いていった。
二、三段ステップをおりると、振り向いて両手を口にあてて叫んだ。

「あのさあ、悠、全部うまく片付いたら、遊んであげるからね」

自信過剰な女、ハルナ。
将也は含み笑いをしていった。

「モテるんだな悠は」

「……ケツキック」

「痛い!!」

将也にわりと強めの蹴りを当てて俺はため息をついた。

なぜか、俺はモテなくてもいい女にばかりモテてしまうのだ。

「痛いなあ…。助手を蹴るなんてひどいぞ。」

「ふん、スパルタ教育なんだよ。それより帰ろうぜ。今日はもうクタクタだし。」

一日の過酷な労働のあとで、オフビートの脅迫話を夜中まで聞かされて、すっかり疲れ切ってしまった。
さっさと家に帰り、シャワーでも浴びて寝よう。

携帯のディスプレイ時計は一時半だった。
さすがに池袋駅前も、人通りは昼間の二分の一くらい。