俺たちは今や、どえらい秘密の小箱をいつも身につけて歩いてる。

そのちいさなブラックボックスは、電子の小銭いれになり、デジタル録音もできて、静止画とムービー両方のカメラとしても機能する。

音楽プレーヤーやテレビとしても、たいへんに有効(どこででもテレビが見たいなんて下品なやつは、そう多くはないだろうけどね。)

インターネットにも接続できて、その場で世界で六番目に人口の多いくには？

なんて質問にも即答できるのだ(正解はパキスタン、約一･六億人)

スケジュール管理やメモ帳として役に立つし、それなりに便利なワープロ機能も付属している。

最近のガキのなかには、親指だけで小説なんかを書くやつもいるのだとか。

まぁ、ディスプレイが小さいので、それなりに話自体も小さくなるのはしかたないかもしれないけどね。

秘密の小箱は、アンタが今いる場所をロックオンするGPSのターゲットにもなるし、アンタの顔見知り三百人分(うち友人はテンパーセントというところか)すべての連絡先をのみこんで知らん顔している。

いってみれば、アンタが何十年かかけて世界中に張り巡らせたクモの巣の中心に、あの電子のおもちゃがきらきらとメタルケースを光らせて鎮座してるって話。

超ミニとタイツ姿で微笑むキャンペーンガールが繁華街ならどこにでもいるよな。

ああいう心のない女たちがただみたいな値段で売ってるから、なんだかつまらないものに見えるけど、そいつは大間違い。

なんでも携帯電話に収められたプログラムは、原子力発電所に負けないほどの分量で、恐ろしく高度なのだという。

もちろん、ただの道具だから、いいことも悪いこともある。

ナイフ、自動車、ケータイに通貨。
すべての道具には二面性があって、時には凶器になるのだ。

そいつは人間の顔が無数にある以上、しかたないよな。

さぁて今回は、間抜けな恐喝団ととひどくごつい年寄りが活躍する秋の池袋の話。

小道具は見てはいけない映像を収めた銀色の携帯電話だ。

あのオヤジには俺も少々痛い目にあったけど、こういう仕事をしていたら、たまにそういうことがあるのもしかたないよな。

なにせ池袋は警視庁の統計にはあらわれない微妙な小競り合いが、毎日ストリートのあちこちで起きてる街なんだから。

そういうところで育つと、俺みたいに賢くて趣味のいい青年になるものだ。

なあ、全国のご両親、アンタのところの子どもも池袋に連れてこないか。

受験技術だけ押し込む学習塾よりも、ずっと子どもの生きる力がつくと思うんだけどね。







ｰ哀愁ブルドックｰ