タカシは俺にアドバイスしながら、ステージを蝶のように舞った。

わかるだろうか、ショットガンをぶっ放しながら軽やかに飛ぶ蝶である。

タカシの見えない拳をくらって、六人の男がすでに倒れていた。

やつは薄笑いしながら、ブラッド宮元にいった。

「どうだ、殴り返してくる相手とやってみる気はあるか」

カリスマエステシャンは獣のような叫び声をあげて、タカシに突進した。

俺はきちんとその場面がフレームに収まるように、たえず身体の向きを変えていた。

ブラッド宮元は格闘技をかじったことがあるようだった。

パンチはただの力任せではなく、きちんと切れがあった。

だが、タカシはここでも一枚上手だった。
きれいに上半身をスウェイして、パンチをかわしながら、常に奴の正面に立ち続ける。

きっと殴りあいより撮影を優先しているのだろう。

「そろそろいいか、悠」

タカシがパンチを避けながら、そういった。

「こっちのシューティングはばっちりだ。仕留めていいぞ、リバー」

「その名で呼ぶな」

腹を立てたタカシの右ストレートはいつもより少し力が入ってしまったようだった。

腰にタックルをしようと突っ込んできたブラッド宮元の顎にカウンターで決まった。

木の棒でも倒れるように受身もとらずにボスが自慢の顔からステージに落ちた。

ミーティングルームの入り口で、男たちの叫び声があがった。

青い火をあげながら発煙筒が飛んでくる。
Sウルフの突撃隊が黒いトラックスーツで大混乱の部屋のなかに侵入してきた。

「いくぞ、悠」

返事の必要はなかった。
そのときには俺はステージを駆けおりていたのだ。

あの映像さえ撮影された、こんなまやかしのサロンに長居は無用だ。

俺とタカシは突撃隊よりも一足早く戦列を離れた。





メルセデスに待機していたイナバに機材を渡した。
やつは自宅につくまえに、映像と音声のチェックを完了している。

いい素材だといって、興奮していた。

ハンドレッドビューティの暴力的な朝礼は、五十秒のショートバージョンと百五十秒の完全版として、その日の内にYouTubeとニコニコ動画に投稿された。

やつは短い方で四回、長い方で十一回、自分のサロンの客のことをカモと呼び、不運なアクセルを殴り付けている。

テレビの人気者の暴力映像が人気を呼ばないわけがなかった。

初日のアクセス数は三十万近くにのぼり、翌日の朝には全民放のワイドショーでミーティングルームの惨事が流れたのである。

まあ、俺としては、映像ねフレーミングに少し不満があったのだが、盗撮の腕はつぎの機械までにちゃんと磨いておくことにした。

なんでも最初からうまくはいかないからな。