ー特別編ーストリートキャッチャー
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稲葉の部屋はあい変わらずゴチャゴチャなのに整頓されている不思議な場所だった。
業務用ラックのなかには、パソコンや映像機器がデジタルの地層のように積み上げられている。
俺は敵地のただなかで盗撮をするという今回の仕事の条件を話した。
やつは前髪をかきあげるといった。
「その映像にはどのくらいのクオリティーが必要なの」
撮影時の危機的状況については関心がないらしい。
撮るほうの身になってくれ。
「わからない。まだその映像をどうつかうか、決めてないんだ。」
「今は地上デジタル放送だから、大型ハイビジョンテレビで見られるくらいの画質ということになると、機材とか照明とか問題が色々出てくるのよ」
俺はブラッド宮元のお上品なスマイルを思い出した。
「別に鮮明である必要はない。映っているのが誰で、そいつがどんなことをしているか。それがわかればいいんだ。」
イナバは気に入らないようだった。
トレースデスクのまえで、両手を頭のうしろで組んだ。
残念そうにいう。
「そう、テレビとかで流さないのね。」
テレビにコネはなかった。俺たちは池袋の街の底で生きているんだ。
Gペンを人差し指でくるくると回しながらイナバがポロリと漏らした。
「だったら、動画系の投稿サイトかしら。YouTubeとか、ニコニコ動画とか。あれなら別に高画質でなくても大丈夫よ。」
俺は思わず手を叩いた。
完全に忘れていたのだ。
ブラッド宮元にスポンサーつきのテレビ番組があるなら、無名の俺たちには完全に無料の動画サイトがある。
あのお姉キャラのカリスマエスティシャンが、これ以上なく男らしく部下を殴り付けるムービーなら、とんでもないアクセス数を記録することだろう。
いまや動画だって誰にでも平等に開かれているのだ。テクノロジーバンザイ。
メディアの民主化バンザイ。
「そのアイディアいただきだ。日本にある動画サイトのすべてに、ブラッド宮元の正体を投稿する。イナバはそのための機材一式を用意して、俺とタカシに操作方法を教えてくれ。決行は一週間後、つぎの朝礼だ。」
イナバはまんざらでもないようだった。
根っからハイテクのいたずらが好きなのだろう。
「いいわね、腕が鳴るわ。ところでその映像だけど、2カメでシューティングして、私が編集して音楽をつけてもいいかしら」
笑ってしまった。
こいつは映像加工オタクでもあった。
俺は上機嫌でいった。
「いいよ。ただし音楽はプロコフィエフの『ロメオとジュリエット』にしてくれ」
今回はすべて人からいただきのアイディアで最後までいきそうなのだ。
音楽くらい俺の趣味を生かしてもらってもかまわないだろ。
業務用ラックのなかには、パソコンや映像機器がデジタルの地層のように積み上げられている。
俺は敵地のただなかで盗撮をするという今回の仕事の条件を話した。
やつは前髪をかきあげるといった。
「その映像にはどのくらいのクオリティーが必要なの」
撮影時の危機的状況については関心がないらしい。
撮るほうの身になってくれ。
「わからない。まだその映像をどうつかうか、決めてないんだ。」
「今は地上デジタル放送だから、大型ハイビジョンテレビで見られるくらいの画質ということになると、機材とか照明とか問題が色々出てくるのよ」
俺はブラッド宮元のお上品なスマイルを思い出した。
「別に鮮明である必要はない。映っているのが誰で、そいつがどんなことをしているか。それがわかればいいんだ。」
イナバは気に入らないようだった。
トレースデスクのまえで、両手を頭のうしろで組んだ。
残念そうにいう。
「そう、テレビとかで流さないのね。」
テレビにコネはなかった。俺たちは池袋の街の底で生きているんだ。
Gペンを人差し指でくるくると回しながらイナバがポロリと漏らした。
「だったら、動画系の投稿サイトかしら。YouTubeとか、ニコニコ動画とか。あれなら別に高画質でなくても大丈夫よ。」
俺は思わず手を叩いた。
完全に忘れていたのだ。
ブラッド宮元にスポンサーつきのテレビ番組があるなら、無名の俺たちには完全に無料の動画サイトがある。
あのお姉キャラのカリスマエスティシャンが、これ以上なく男らしく部下を殴り付けるムービーなら、とんでもないアクセス数を記録することだろう。
いまや動画だって誰にでも平等に開かれているのだ。テクノロジーバンザイ。
メディアの民主化バンザイ。
「そのアイディアいただきだ。日本にある動画サイトのすべてに、ブラッド宮元の正体を投稿する。イナバはそのための機材一式を用意して、俺とタカシに操作方法を教えてくれ。決行は一週間後、つぎの朝礼だ。」
イナバはまんざらでもないようだった。
根っからハイテクのいたずらが好きなのだろう。
「いいわね、腕が鳴るわ。ところでその映像だけど、2カメでシューティングして、私が編集して音楽をつけてもいいかしら」
笑ってしまった。
こいつは映像加工オタクでもあった。
俺は上機嫌でいった。
「いいよ。ただし音楽はプロコフィエフの『ロメオとジュリエット』にしてくれ」
今回はすべて人からいただきのアイディアで最後までいきそうなのだ。
音楽くらい俺の趣味を生かしてもらってもかまわないだろ。