するとタカシが信じられないことをいった。

『面接はいつだ』

「面接？まだサイトものぞいてないし、連絡もとってない。わかるわけないだろ」

『だったら、さっさと手配しろ。こっちにも動かせない予定がたくさんあるからな』

どういう意味だろうか。
西口五差路が近づいてきた。

マルイの前では恋人たちが今日もたくさん待ち合わせしている。

俺は間の抜けたことをいった。

「タカシが俺の面接のつきそいにでもくるのか」

ふうと電話のむこうで王様がため息をついた。

『わからないやつだな。俺もその面接を浮けるといってるんだ』

王はいつもアルカイックな様子で冗談をいう。
俺にはタカシが本気なのか、まるでわからなかった。

「池袋のキング様がキャッチをやるのか……」

いまいましげにタカシがいった。

『今日はあちこちのチームから請願を受ける日でな。ゆゆみのチームからブラッド宮元のところの苦情があがったんだ。一千万単位で被害がでたんじゃ、Sウルフとしても黙っていられないだろ』

今度大笑いするのは、俺のほうだった。
マルイのまえの若い女たちがおかしな顔をして、俺を見た。

「そいつは傑作だな。タカシと俺がチームを組んだら、日本一のキャッチになれるかもしれない」

タカシは負けていなかった。アイスクールな返事が瞬時に戻ってくる。

『違いない。俺の「ルックス」とお前の「減らず口」コンビなら、最強だな。面接が決まったら電話しろ』

王様は不機嫌に電話を切った。
俺の得点がワンポイント。






その夜はソファで寝転びiPodでプロコフィエフの『ロメオとジュリエット』をかけた。

シェークスピアの流麗なロマンスというより、現代の神経症的な恋人たちを描いたバレエ音楽だ。

「騎士たちの踊り」という楽章が、携帯電話のコマーシャルにつかわれてるから、きっとアンタもきいたら、すぐにわかると思う。

陰鬱で、皮肉なダンスミュージックだ。

そのあいだ真桜は、ブラッド宮元がレギュラー出演するMC全員がお姉キャラの番組を見ていた。

笑い声がたくさん足してあるつくられたコメディ。

ブラッドは目の下の小じわをとるマッサージを、若くてしわなどないモデルに施していた。

『それ、それ、それー、満点ビューティのできあがりー』

スタジオでおおいに盛り上がっているようだ。
俺は頬を打たれて直立不動で礼をいったガキのことを思い出していた。

世の中には実にいろいろな商売がある。

その夜は寝る前にネットでハンドレッドビューティのサイトをのぞいた。

扉のページは、歯だけがプラスチックのように純白なブラッド宮元のにやけた日焼け顔のアップ。

なにも映さないガラス珠みたいな目をしている。

ページのほとんどは、エステや化粧品の案内だったが、モニタの隅に契約社員急遽のバナーが点滅していた。

ワンクリックで求人案内を見る。
最初の一行で声をあげて笑ってしまった。

【来たれ！容姿端麗、野心満々のビューティ男子！】

なんだか、タカシと俺にぴったりみたいだ。