ー特別編ーブラフ・テレフォン
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『わかった。いったん電話を切ってくれ。』
俺は携帯を切った。
グレイのパーカーのガキがベンチを立ち、歩きながら別な携帯で番号を選んでいる。
おれの携帯が鳴った。
『そいつが、おれの個人用携帯だ。もうこれで後戻りはできなくなったんだな。』
「そうだ。おまえは裏の世界をでて、光のなかに戻ってくる」
歩きながら話しているおれたちの距離が、しだいに縮まった。
円形広場の中心で、おれと電話男はむかいあった。
やつの目の奥がのぞける距離になって、ようやく携帯を切った。
「やあ、俺のことはただの悠でいい。」
「わかった、ゆう。ヨウジだ。わかってると思うけど、得意なのは電話。」
それでおれたちは握手した。電話男の手は意外にも、とてもあたたかい。
今度は同じベンチにならんで座った。
「で、悠はどうするつもりなんだ。おれのほうには、いくらか資金の余裕はあるけど」
おれはまだ全然考えていなかった。
適当にでたらめを口にする。
「サツにチクるのが一番簡単なんだけどな。ヨウジがどこかに逃げている間に、会社に警察の手がはいる。全員ご用だ。」
ヨウジは見下すような目で俺を見る。
「それでも腕利きのトラブルシューターなのか。そうしたら、おれは全国指名手配だろ。誰も口を割らなくて助かったとしても、塀のなかに落ちたやつらには、おれが仲間を売ったとわかっている。いつか報復されることになる。地獄だよ。」
おれはベンチのうえで背伸びした。
「ダメなアイディアだとはわかってるさ。今、依頼を受けたばかりで、うまい手なんか浮かぶか。あとで連絡する。もう今日からは、振り込め詐欺はやめておけよ。風邪をひいたとかなんとかいって、サボってろ。」
ヨウジはうなずくと、立ち上がった。
「わかった。悠、頼むな。」
灰色の丸い背中が、春真っ盛りな公園を遠ざかっていく。
ちょうど昼時だった。
おれはベンチを立ち上がり、メトロポリタンプラザに向かった。
ファミレスで禅の顔をみながらハンバーグでもくって帰ろう。
ついでにCDショップに寄るのもいいかもしれない。
音楽雑誌で読んだのだ。
フリードリヒ・グルダが二十五年ばかりまえにいれたモーツアルトのピアノソナタのテープが発見されたのだとか。ききものだ。
こんないい季節なんだ。
暗くて難しい音楽なんて聞きたくないからな。
その日の午後は一見シンプルなのに、きらきらと輝くピアノソナタをききながら、ベッドに倒れていた。
あれこれと考えてみる。
なにより問題は、二十六歳の社長だった。
やつがいったい、どんな人間なのか。それに裏についてる組織が、どんな筋なのか。
上納金を毎月三百万以上も納めてくれる優良な企業舎弟なのだ。
むこうも必死で社長を守るに違いない。
俺は携帯を切った。
グレイのパーカーのガキがベンチを立ち、歩きながら別な携帯で番号を選んでいる。
おれの携帯が鳴った。
『そいつが、おれの個人用携帯だ。もうこれで後戻りはできなくなったんだな。』
「そうだ。おまえは裏の世界をでて、光のなかに戻ってくる」
歩きながら話しているおれたちの距離が、しだいに縮まった。
円形広場の中心で、おれと電話男はむかいあった。
やつの目の奥がのぞける距離になって、ようやく携帯を切った。
「やあ、俺のことはただの悠でいい。」
「わかった、ゆう。ヨウジだ。わかってると思うけど、得意なのは電話。」
それでおれたちは握手した。電話男の手は意外にも、とてもあたたかい。
今度は同じベンチにならんで座った。
「で、悠はどうするつもりなんだ。おれのほうには、いくらか資金の余裕はあるけど」
おれはまだ全然考えていなかった。
適当にでたらめを口にする。
「サツにチクるのが一番簡単なんだけどな。ヨウジがどこかに逃げている間に、会社に警察の手がはいる。全員ご用だ。」
ヨウジは見下すような目で俺を見る。
「それでも腕利きのトラブルシューターなのか。そうしたら、おれは全国指名手配だろ。誰も口を割らなくて助かったとしても、塀のなかに落ちたやつらには、おれが仲間を売ったとわかっている。いつか報復されることになる。地獄だよ。」
おれはベンチのうえで背伸びした。
「ダメなアイディアだとはわかってるさ。今、依頼を受けたばかりで、うまい手なんか浮かぶか。あとで連絡する。もう今日からは、振り込め詐欺はやめておけよ。風邪をひいたとかなんとかいって、サボってろ。」
ヨウジはうなずくと、立ち上がった。
「わかった。悠、頼むな。」
灰色の丸い背中が、春真っ盛りな公園を遠ざかっていく。
ちょうど昼時だった。
おれはベンチを立ち上がり、メトロポリタンプラザに向かった。
ファミレスで禅の顔をみながらハンバーグでもくって帰ろう。
ついでにCDショップに寄るのもいいかもしれない。
音楽雑誌で読んだのだ。
フリードリヒ・グルダが二十五年ばかりまえにいれたモーツアルトのピアノソナタのテープが発見されたのだとか。ききものだ。
こんないい季節なんだ。
暗くて難しい音楽なんて聞きたくないからな。
その日の午後は一見シンプルなのに、きらきらと輝くピアノソナタをききながら、ベッドに倒れていた。
あれこれと考えてみる。
なにより問題は、二十六歳の社長だった。
やつがいったい、どんな人間なのか。それに裏についてる組織が、どんな筋なのか。
上納金を毎月三百万以上も納めてくれる優良な企業舎弟なのだ。
むこうも必死で社長を守るに違いない。