ー特別編ーブラフ・テレフォン
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『おれは事故現場にかけつけた警察官役だった。民事は不介入だが、あなたのお孫さんがかわいそうでと同情したりする。電話ですこし話しているうちに、事情がわかってきた。あのバアサンの孫は軽く知的な障害があったらしい。日本は平均を外れたやつには厳しいからな。ようやく見つけた仕事だったようだ。製パン業だったらしいが、孫が仕事をなくすのを極端に恐れていた。あとは振り込み先をいうだけだった』
知的障害をもつ孫と認知症の初期だった祖母。
どうにも厳しい話になってきた。
ヨウジの声がちいさくなった。
『外車の前部が半損して、見積もりは三百二十万円だといった』
「そうか」
『出し屋が銀行からその日のうちに引き出して、会社にはやつの報酬六パーセントを抜いた三百万が残った。まあ、出し屋は外注で、だいたいは金に困った遊び人や主婦なんかが多い。うちの会社は五人でやってるんだが、月のノルマは一千万なんだ。それでめでたく三月のノルマ達成だ。社長のおごりでその日の夜は特上カルビだったよ』
おれは都心の公園のうえのぼんやりと青い春の空を見上げた。
この空のしたには無数の人間が生きている。
罪を犯すやつと犯さないやつ。
ただしい人間と間違った人間。
そいつをどう見分けたらいいのだろうか。
おれは広場の反対側にいるヨウジにいった。
「あのニュースをきいたとき、お前が何を感じたか。誰かの役でなく、自分自身になってなるべく正確に話せ。お前の依頼を受けるかどうかは、それで決める。」
いくら電話では誰にでも変身できても、このこたえはむずかしいようだった。
ため息をついて、ヨウジはいう。
『ショックだった。小鳥遊さんにはわからないかもしれないが、振り込め詐欺ってゲームみたいなものなんだ。ひとつの部屋に若いやつだけで集まって、みんなでわいわい仕事をする。プリペイド携帯に、名簿に、振り込め詐欺マニュアル。それだけで簡単に始められる仕事だし、金さえ出せば全部裏の筋で手にはいる。うちの会社は優秀だったし、毎月ノルマは果たしていた。ほんとにサークル活動みたいで、楽しかったんだ。それが昨日ですべてがかわっちまった。社長は、こういうこともあるから気にするなというけれど、おれはあのニュース以来、全然電話がかけられなくなった。おれの電話がひとりの人間の命を奪ったかもしれない。そう思ったら、もうダメなんだ。でも、会社はおれを自由にしてはくれない。』
俺は頭上のケヤキを見上げた。細かな若葉は水の色を透かしている。
「さっきから社長、社長っていってるけど、そいつはどんなやつなんだ。年齢は?」
ヨウジはしばらく息を整えてから、返事をした。
知的障害をもつ孫と認知症の初期だった祖母。
どうにも厳しい話になってきた。
ヨウジの声がちいさくなった。
『外車の前部が半損して、見積もりは三百二十万円だといった』
「そうか」
『出し屋が銀行からその日のうちに引き出して、会社にはやつの報酬六パーセントを抜いた三百万が残った。まあ、出し屋は外注で、だいたいは金に困った遊び人や主婦なんかが多い。うちの会社は五人でやってるんだが、月のノルマは一千万なんだ。それでめでたく三月のノルマ達成だ。社長のおごりでその日の夜は特上カルビだったよ』
おれは都心の公園のうえのぼんやりと青い春の空を見上げた。
この空のしたには無数の人間が生きている。
罪を犯すやつと犯さないやつ。
ただしい人間と間違った人間。
そいつをどう見分けたらいいのだろうか。
おれは広場の反対側にいるヨウジにいった。
「あのニュースをきいたとき、お前が何を感じたか。誰かの役でなく、自分自身になってなるべく正確に話せ。お前の依頼を受けるかどうかは、それで決める。」
いくら電話では誰にでも変身できても、このこたえはむずかしいようだった。
ため息をついて、ヨウジはいう。
『ショックだった。小鳥遊さんにはわからないかもしれないが、振り込め詐欺ってゲームみたいなものなんだ。ひとつの部屋に若いやつだけで集まって、みんなでわいわい仕事をする。プリペイド携帯に、名簿に、振り込め詐欺マニュアル。それだけで簡単に始められる仕事だし、金さえ出せば全部裏の筋で手にはいる。うちの会社は優秀だったし、毎月ノルマは果たしていた。ほんとにサークル活動みたいで、楽しかったんだ。それが昨日ですべてがかわっちまった。社長は、こういうこともあるから気にするなというけれど、おれはあのニュース以来、全然電話がかけられなくなった。おれの電話がひとりの人間の命を奪ったかもしれない。そう思ったら、もうダメなんだ。でも、会社はおれを自由にしてはくれない。』
俺は頭上のケヤキを見上げた。細かな若葉は水の色を透かしている。
「さっきから社長、社長っていってるけど、そいつはどんなやつなんだ。年齢は?」
ヨウジはしばらく息を整えてから、返事をした。