ー特別編ーブラフ・テレフォン
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「勝手なことばかりいうな。だまされたほうは、どうなる」
やつはベンチでうつむいた。だが、声は冷静だ。
『どうにもならないさ。おれたちは全額奪おうなんておもってない。せいぜい数百万振り込ませて、それでおしまいだ。腹は立つだろうが、簡単に人を信じちゃいけないといい教訓になるだろう。明日から暮らしていけないわけじゃない。おれは会社の仲間といっしょに、そんな風に思っていた。』
やつが黙りこんだ。
おれがやつがいえないことをいってやる。
「昨日まではな」
電話男の声にはじめて苦痛の色が滲んだ。
『そうだ。昨日まで。あのバアサンには孫がいたんだ。孫がいる年寄りリストっていうのが、世の中にはでまわっているんだ。』
まったく恐ろしい世の中だ。
そうなると、おれのようにクラシック好きで、イケメンなのに、女がいない、補導歴のある健康な男子のリストもきっとあることだろう。
そいつでどんな商売ができるのか。オペラかヘルスの案内?
おれは妄想を振り切っていう。
「ひとり暮らしの家に、あんたが電話をかけた。」
『いや、違う。プリペイドの携帯を最初につかったのは、泣き屋だ。』
「泣き屋?」
いろいろな仕事があるものだ。振り込め詐欺の会社に在籍する泣き屋。
笑い屋、怒り屋もいるのだろうか。
『泣き屋が最初に電話をして、困った、交通事故を起こしたというんだ。あとはめそめそと動転して泣いた振りをしていればいい。だいたい頭のトロいやつがやる役だ。相手がまだ事態をよくのみこめないうちに、次の役に代わる。振り込め詐欺はチームプレイなんだ。』
仕事はチームプレーが大事なのは不思議とどんな内容でも同じようだった。
「アンタは電話じゃあ、頭の回転が良いみたいだな。一番重要な役はつぎにでてくるやつなんだろ。」
ヨウジはすこしだけ得意そうだった。
『状況にあわせた演技と、わずかだが専門知識も必要になる。振り込め詐欺では二番バッターが最強なんだ。役はいろいろ。警察官、保険会社の社員、弁護士なんか。同情しながら、示談のために金が必要だと事務的にいうんだ』
それくらいのことで、詐欺が成立するのが信じられなかった。
だったら俺に向いているのかもしれない無駄な知識は豊富だしな…。
「うまくいくのか、それだけで」
『ああ、ほかにも被害者役だの医者役だとかが、電話口に控えている。うまくいくときは二番手までであとの出番はないくらいだ。リストをもとに毎日百本、二百本と電話をかける。なかには何人か、だまされやすい人間がいる。昨日のバアサンみたいにな』
ようやく最初の話に戻ってきた。
やつはベンチでうつむいた。だが、声は冷静だ。
『どうにもならないさ。おれたちは全額奪おうなんておもってない。せいぜい数百万振り込ませて、それでおしまいだ。腹は立つだろうが、簡単に人を信じちゃいけないといい教訓になるだろう。明日から暮らしていけないわけじゃない。おれは会社の仲間といっしょに、そんな風に思っていた。』
やつが黙りこんだ。
おれがやつがいえないことをいってやる。
「昨日まではな」
電話男の声にはじめて苦痛の色が滲んだ。
『そうだ。昨日まで。あのバアサンには孫がいたんだ。孫がいる年寄りリストっていうのが、世の中にはでまわっているんだ。』
まったく恐ろしい世の中だ。
そうなると、おれのようにクラシック好きで、イケメンなのに、女がいない、補導歴のある健康な男子のリストもきっとあることだろう。
そいつでどんな商売ができるのか。オペラかヘルスの案内?
おれは妄想を振り切っていう。
「ひとり暮らしの家に、あんたが電話をかけた。」
『いや、違う。プリペイドの携帯を最初につかったのは、泣き屋だ。』
「泣き屋?」
いろいろな仕事があるものだ。振り込め詐欺の会社に在籍する泣き屋。
笑い屋、怒り屋もいるのだろうか。
『泣き屋が最初に電話をして、困った、交通事故を起こしたというんだ。あとはめそめそと動転して泣いた振りをしていればいい。だいたい頭のトロいやつがやる役だ。相手がまだ事態をよくのみこめないうちに、次の役に代わる。振り込め詐欺はチームプレイなんだ。』
仕事はチームプレーが大事なのは不思議とどんな内容でも同じようだった。
「アンタは電話じゃあ、頭の回転が良いみたいだな。一番重要な役はつぎにでてくるやつなんだろ。」
ヨウジはすこしだけ得意そうだった。
『状況にあわせた演技と、わずかだが専門知識も必要になる。振り込め詐欺では二番バッターが最強なんだ。役はいろいろ。警察官、保険会社の社員、弁護士なんか。同情しながら、示談のために金が必要だと事務的にいうんだ』
それくらいのことで、詐欺が成立するのが信じられなかった。
だったら俺に向いているのかもしれない無駄な知識は豊富だしな…。
「うまくいくのか、それだけで」
『ああ、ほかにも被害者役だの医者役だとかが、電話口に控えている。うまくいくときは二番手までであとの出番はないくらいだ。リストをもとに毎日百本、二百本と電話をかける。なかには何人か、だまされやすい人間がいる。昨日のバアサンみたいにな』
ようやく最初の話に戻ってきた。