ー特別編ーブラフ・テレフォン
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「そんな調子でほんとうに振り込め詐欺なんて、できるのかよ」
ガキはすねた声でいった。
『自分だって、もう一回だまされてるじゃないか』
「えっ」
するとガキの声が一変した。先ほどのNPO法人の男の声になる。
『依頼人は会社ではたいへん優秀な成績をあげており、それも社長が離そうとしない理由のひとつと思われます。なんでも、即興で相手に応じた設定の演技が得意なのだとか』
おれは大笑いしてしまった。なるほど、どんな仕事にも、適性と言うのはあるものだ。
「わかったよ。お前に一ポイントやる。でも、完全に姿かたちがわからないんじゃ、おれが話しにくいな。公園にはいってこい。円形広場のおれから一番離れたベンチにでも座るといい。話はそれからだ。」
携帯を切った。
電話で話していたのでは、やつのペースに巻き込まれるだけだと思ったのだ。
着信記録を確認する。
非通知。
そのガキは、どこといって特徴のないやつだった。
ブラックジーンズにグレイのパーカー。
目のすぐ上までニットキャップを深くかぶっている。おれは自分のベンチから、やつが携帯を開いて電話するのを眺めていた。
距離は約六十メートルというところ。
着信音が鳴って、おれはそいつが依頼人だとわかった。
「悠だ。」
『おれの名前は、高木陽二。面倒な手をつかって、すまない。でも、どうやったら真剣に話をきいてもらえるか、これでもずいぶんと考えたんだ。』
おれはモノトーンの電話男を見つめていた。
NPOの男、先ほどの自信欠如のガキ、それに第三のキャラクターがあらわれたようだった。
ヨウジは電話のなかで、何人の人間に変身できるのだろうか。
「今のアンタが、ほんもののアンタなのか」
円形広場の反対側で、カメレオンが短く笑った。
『自分でもわからない。昔から電話で話すときだけは、いくらでも自由にパーソナリティーを変えられたんだ』
「ふーん、じゃあ、振り込め詐欺は天職だな。」
『おれもそう思っていた。昨日までは』
自殺した老人。
西巣鴨は池袋のほんのとなり街だ。
「それまではなんとも思わなかったのか。」
『ああ』
おれの言葉はすこしきつくなった。
「なぜだ」
『うちの社長がよくいっていた。会社の仕事は、日本経済のために役立っているってな』
振り込め詐欺が経済活性化に有効?
現代経済学の新説だった。
『小鳥遊さんは六十歳以上の平均貯蓄額はしってるか』
しらないといった。
『だいたい二千三百万円だそうだ。銀行かタンスの中で眠ってるだけの金だ。おれたちが年寄りをだまして金をとり、そいつをきちんと消費にまわす。ちゃんと経済の活性化に役立ってるさ。』
おれは自分の預金額を考えた。桁がふたつ違う。
おれにはとても四十年後、そんな額は貯められそうもない。
だが、奪われた金も老人たちには生涯をかけてつくった命金だったはずだ。
ガキはすねた声でいった。
『自分だって、もう一回だまされてるじゃないか』
「えっ」
するとガキの声が一変した。先ほどのNPO法人の男の声になる。
『依頼人は会社ではたいへん優秀な成績をあげており、それも社長が離そうとしない理由のひとつと思われます。なんでも、即興で相手に応じた設定の演技が得意なのだとか』
おれは大笑いしてしまった。なるほど、どんな仕事にも、適性と言うのはあるものだ。
「わかったよ。お前に一ポイントやる。でも、完全に姿かたちがわからないんじゃ、おれが話しにくいな。公園にはいってこい。円形広場のおれから一番離れたベンチにでも座るといい。話はそれからだ。」
携帯を切った。
電話で話していたのでは、やつのペースに巻き込まれるだけだと思ったのだ。
着信記録を確認する。
非通知。
そのガキは、どこといって特徴のないやつだった。
ブラックジーンズにグレイのパーカー。
目のすぐ上までニットキャップを深くかぶっている。おれは自分のベンチから、やつが携帯を開いて電話するのを眺めていた。
距離は約六十メートルというところ。
着信音が鳴って、おれはそいつが依頼人だとわかった。
「悠だ。」
『おれの名前は、高木陽二。面倒な手をつかって、すまない。でも、どうやったら真剣に話をきいてもらえるか、これでもずいぶんと考えたんだ。』
おれはモノトーンの電話男を見つめていた。
NPOの男、先ほどの自信欠如のガキ、それに第三のキャラクターがあらわれたようだった。
ヨウジは電話のなかで、何人の人間に変身できるのだろうか。
「今のアンタが、ほんもののアンタなのか」
円形広場の反対側で、カメレオンが短く笑った。
『自分でもわからない。昔から電話で話すときだけは、いくらでも自由にパーソナリティーを変えられたんだ』
「ふーん、じゃあ、振り込め詐欺は天職だな。」
『おれもそう思っていた。昨日までは』
自殺した老人。
西巣鴨は池袋のほんのとなり街だ。
「それまではなんとも思わなかったのか。」
『ああ』
おれの言葉はすこしきつくなった。
「なぜだ」
『うちの社長がよくいっていた。会社の仕事は、日本経済のために役立っているってな』
振り込め詐欺が経済活性化に有効?
現代経済学の新説だった。
『小鳥遊さんは六十歳以上の平均貯蓄額はしってるか』
しらないといった。
『だいたい二千三百万円だそうだ。銀行かタンスの中で眠ってるだけの金だ。おれたちが年寄りをだまして金をとり、そいつをきちんと消費にまわす。ちゃんと経済の活性化に役立ってるさ。』
おれは自分の預金額を考えた。桁がふたつ違う。
おれにはとても四十年後、そんな額は貯められそうもない。
だが、奪われた金も老人たちには生涯をかけてつくった命金だったはずだ。