ー特別編ーブラフ・テレフォン
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「わかってる。どこかの組織と繋がってるというんだろ。何時に会える?場所は池袋西口の公園だ。」
『やっぱ直接あって話さないとダメなんですか。おれ、人と話をするの得意じゃ無いんですけど』
なんだか面倒くさいガキ。ついおれの声も冷たくなる。
「振り込め詐欺の電話は得意でも、誰かに会うのは苦手なのか。」
『そうっす。人が苦手だから、電話でできる仕事にしたくらいなんで』
あきれた詐欺師。
おれはいった。
「じゃあ、十一時に、円形広場のベンチにこい。来なかったり電話で済ますつもりならこの話は聞かないからな。」
さっさと電話を切った。
おれはどっちかというと、電話は嫌いだ。
携帯やメールよりも、直接話すほうがずっといい。
だって、おれたちが交換してるのは、ただの情報だけじゃないからな。
その人らしさとか、体温とか、においとか、電波にのらないものがたくさんあるのだ。
家をでて、おれはiPodをかけた。
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第五番『春』。
明るくて、朗らかで、全十曲のヴァイオリンソナタのなかでは、一番フェミニンだ。
この曲を書いたころ、さすがの巨人もまだ三十そこそこ。のびのびと陽性のメロディは広がっていく。
誰でも年をとると難しくなるということか。
おれは真桜にひと声かけて、家を出た。
口笛で「春」のヴァイオリンの最初のテーマを吹きながら。
なあ、おれって意外とまともだろ。
なぜ、サラリーマンがおれが歩いていくと歩道をわきに避けていくのか。
そいつの意味のほうがよくわからない。
池袋はいつもの春の公園だった。
この季節はふきあがる噴水の水さえ、どこかまろやかだ。
凍えそうに羽を寄せあっていたハトたちも、灰色の旗になって都心の空を旋回(せんかい)している。
おれは十一時をほんのすこしすぎて、パイプベンチに腰かけた。
冬だったらかなり勇気のいる行為である。
なにせステンレスは凍りつくほど冷え込んでるからな。
おれは四方に視線を送った。
ベンチの六割がたは埋まっている。
仕事をさぼった会社員、これから授業に出る学生、それにいつもながらのホームレス。
電話のガキらしきやつは、どこにも見当たらない。
おれは春の陽射しをいっぱいに浴びるように足を思いきり伸ばして、ベンチでリラックスした。
午前中三度目の携帯が鳴った。おれの携帯にしては大活躍だ。
『あの、すみません』
さっきのガキの声だった。
「顔を見せないなら帰るぞ。」
『まだ直接、話がしにくくて。おれ、ほんとうに生の人間が苦手なんです。西口公園の近くまではきてるんですけど。』
思わずため息をついてしまう。
『やっぱ直接あって話さないとダメなんですか。おれ、人と話をするの得意じゃ無いんですけど』
なんだか面倒くさいガキ。ついおれの声も冷たくなる。
「振り込め詐欺の電話は得意でも、誰かに会うのは苦手なのか。」
『そうっす。人が苦手だから、電話でできる仕事にしたくらいなんで』
あきれた詐欺師。
おれはいった。
「じゃあ、十一時に、円形広場のベンチにこい。来なかったり電話で済ますつもりならこの話は聞かないからな。」
さっさと電話を切った。
おれはどっちかというと、電話は嫌いだ。
携帯やメールよりも、直接話すほうがずっといい。
だって、おれたちが交換してるのは、ただの情報だけじゃないからな。
その人らしさとか、体温とか、においとか、電波にのらないものがたくさんあるのだ。
家をでて、おれはiPodをかけた。
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第五番『春』。
明るくて、朗らかで、全十曲のヴァイオリンソナタのなかでは、一番フェミニンだ。
この曲を書いたころ、さすがの巨人もまだ三十そこそこ。のびのびと陽性のメロディは広がっていく。
誰でも年をとると難しくなるということか。
おれは真桜にひと声かけて、家を出た。
口笛で「春」のヴァイオリンの最初のテーマを吹きながら。
なあ、おれって意外とまともだろ。
なぜ、サラリーマンがおれが歩いていくと歩道をわきに避けていくのか。
そいつの意味のほうがよくわからない。
池袋はいつもの春の公園だった。
この季節はふきあがる噴水の水さえ、どこかまろやかだ。
凍えそうに羽を寄せあっていたハトたちも、灰色の旗になって都心の空を旋回(せんかい)している。
おれは十一時をほんのすこしすぎて、パイプベンチに腰かけた。
冬だったらかなり勇気のいる行為である。
なにせステンレスは凍りつくほど冷え込んでるからな。
おれは四方に視線を送った。
ベンチの六割がたは埋まっている。
仕事をさぼった会社員、これから授業に出る学生、それにいつもながらのホームレス。
電話のガキらしきやつは、どこにも見当たらない。
おれは春の陽射しをいっぱいに浴びるように足を思いきり伸ばして、ベンチでリラックスした。
午前中三度目の携帯が鳴った。おれの携帯にしては大活躍だ。
『あの、すみません』
さっきのガキの声だった。
「顔を見せないなら帰るぞ。」
『まだ直接、話がしにくくて。おれ、ほんとうに生の人間が苦手なんです。西口公園の近くまではきてるんですけど。』
思わずため息をついてしまう。