ー特別編ーブラフ・テレフォン
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今年の冬は異常な寒さだった。
なにせ記憶にないほど久しぶりに、うちのまえを雪掻きしたくらい。
東京の雪は初日だけきれいで、あとは泥まみれで話にならない。
池袋の駅前もすっかり茶色い残雪でびしゃびしゃだった。
俺は寒いのが苦手なので、いくら異常気象でもあったかな冬の方が何十倍も好きだ。
だが、どんなに厳しい冬も終わり。リリーホワイトがやって来る。
春の奇跡だ。
そんなのあたりまえだと、アンタはいうかもしれない。
でも、三月のある朝目覚めて、その春最初のやわらかな風に全身をつかまれてみるといい。
しびれるような奇跡は毎年やって来る。
そいつは俺が十何回目かの春に胸打たれていた庭先だった。
広間のテレビでは午前十二時半のニュースが流れていた。
『豊島区西巣鴨でひとり暮らしのお年寄りが自殺しました。』
地名にひかれて、顔を向けた。
テレビに目をやる。
ピンぼけの白黒写真でかろうじて老女だとわかった。
平塚てい(73歳)
『平塚さんは軽い認知症を起こしており、数日前に振り込め詐欺にあって以来、ひどく落ち込んでいたそうです。警視庁では、この詐欺グループのゆくえを全力で追っています。』
画面に映っているのは、おれよりも年うえの木造モルタルアパートだった。
テロップは流れる。
「振り込め詐欺で、お年寄りの自殺か。」
あの老女はこの暗い場所で、ひとり生きて死んでいったのだ。
もしおれが死んだら妙に明るく猥雑な池袋がニュースの背景に流れるのだろうか。
おれらしくて、それもいいけれど。
女性アナウンサーの声が急に陽気になった。
『さて、つぎは春のマザー牧場で、幼稚園児が乳しぼりです。』
とりあえず、ホルスタインにも園児にも興味はない。俺は庭に戻った。
その電話があったのは、ニュースを見たことなんか完全に忘れていた翌日の午前中のことだった。
二階の俺の部屋。
ベッドでモンスターをハントしていた十時過ぎに、携帯が鳴った。
しぶしぶ着信を確認したが、非通知だ。
どこのどいつだろうか。
「はい、もしもし。」
切れのいい若い男の声がした。
『失礼ですが、小鳥遊悠さんでいらっしゃいますか』
話し方ですぐに友人の誰かではないとわかった。
おれの知り合いに、まともに敬語を使えるやつなんていない。
「そうだけで、そっちは誰?」
『申し訳ありません、まだ名前をお教えすることはできません。すこしだけ、お話しさせてもらってかまわないでしょうか』
新手の携帯テレフォンショッピングだろうか。
おれはPSPをスリープモードにして、ベッドのうえで、上体だけ起こした。
「いいけど、俺になにか用があるのか」
『わたしどもでは、小鳥遊さんが費用をとらずに街で起きているトラブルを解決してくださると聞いてます。これは事実ですか』
まるで取り調べのようだった。
おれのなかでイエローアラート(警戒警報)が鳴る。
なにせ記憶にないほど久しぶりに、うちのまえを雪掻きしたくらい。
東京の雪は初日だけきれいで、あとは泥まみれで話にならない。
池袋の駅前もすっかり茶色い残雪でびしゃびしゃだった。
俺は寒いのが苦手なので、いくら異常気象でもあったかな冬の方が何十倍も好きだ。
だが、どんなに厳しい冬も終わり。リリーホワイトがやって来る。
春の奇跡だ。
そんなのあたりまえだと、アンタはいうかもしれない。
でも、三月のある朝目覚めて、その春最初のやわらかな風に全身をつかまれてみるといい。
しびれるような奇跡は毎年やって来る。
そいつは俺が十何回目かの春に胸打たれていた庭先だった。
広間のテレビでは午前十二時半のニュースが流れていた。
『豊島区西巣鴨でひとり暮らしのお年寄りが自殺しました。』
地名にひかれて、顔を向けた。
テレビに目をやる。
ピンぼけの白黒写真でかろうじて老女だとわかった。
平塚てい(73歳)
『平塚さんは軽い認知症を起こしており、数日前に振り込め詐欺にあって以来、ひどく落ち込んでいたそうです。警視庁では、この詐欺グループのゆくえを全力で追っています。』
画面に映っているのは、おれよりも年うえの木造モルタルアパートだった。
テロップは流れる。
「振り込め詐欺で、お年寄りの自殺か。」
あの老女はこの暗い場所で、ひとり生きて死んでいったのだ。
もしおれが死んだら妙に明るく猥雑な池袋がニュースの背景に流れるのだろうか。
おれらしくて、それもいいけれど。
女性アナウンサーの声が急に陽気になった。
『さて、つぎは春のマザー牧場で、幼稚園児が乳しぼりです。』
とりあえず、ホルスタインにも園児にも興味はない。俺は庭に戻った。
その電話があったのは、ニュースを見たことなんか完全に忘れていた翌日の午前中のことだった。
二階の俺の部屋。
ベッドでモンスターをハントしていた十時過ぎに、携帯が鳴った。
しぶしぶ着信を確認したが、非通知だ。
どこのどいつだろうか。
「はい、もしもし。」
切れのいい若い男の声がした。
『失礼ですが、小鳥遊悠さんでいらっしゃいますか』
話し方ですぐに友人の誰かではないとわかった。
おれの知り合いに、まともに敬語を使えるやつなんていない。
「そうだけで、そっちは誰?」
『申し訳ありません、まだ名前をお教えすることはできません。すこしだけ、お話しさせてもらってかまわないでしょうか』
新手の携帯テレフォンショッピングだろうか。
おれはPSPをスリープモードにして、ベッドのうえで、上体だけ起こした。
「いいけど、俺になにか用があるのか」
『わたしどもでは、小鳥遊さんが費用をとらずに街で起きているトラブルを解決してくださると聞いてます。これは事実ですか』
まるで取り調べのようだった。
おれのなかでイエローアラート(警戒警報)が鳴る。