翌日の昼前だった。
学校の屋上で昼寝をしてると、携帯が鳴った。

『俺だ。』

池袋には何人の王様がいるのだろう。
こちらはビル開発ではなく、ガキの王。

『お前がアズサに探らせていた結果が出た。』

俺は上半身を起こして、転落防止フェンスに持たれた。

タカシの声は陽気な氷柱のようだ。

『いいか、名簿をチェックすると、カズフミの事件が起きてから消えたガキで、素行の悪いやつらということで三人組の名前があがった。』

最初に身代金を奪おうとした三人を思い出した。
ビンゴ！

『こいつらは同じアパートに住んでる。引っ越しや工場の作業で、なんとか日々を送っているらしい。住所は板橋区の相生町』

キングが番地とアパートの名前をいった。

『どうする、悠。ちょっと襲ってみるか。』

低い笑い声。
心底愉快そうである。

「待ってくれ。おれにちょっと考えがある。そいつらは考えなしだが、やつらをつかまえるだけでは問題は解決しないんだ。すこし時間をくれ。」

『いいだろう。お前にのろう』

ものわかりのいい王様。




俺はなんとかソフトランディングの方法を下がっていた。

今回はただ事件を解決するだけではダメなのだ。
ねじれた親子関係に橋をかけ、桂リライアンスというビッグマシーンを、この街のために動かしたい。

俺が夏空を見上げながら考えていたのは、そういうことだった。

だって、ただ誘拐事件を解決するだけじゃ、アンタだって退屈だろ。

だが、現実はいつだって、俺たちの予想を超えるのだ。

事件解決の鍵は、なんと桂リライアンスの社長の頭のなかにあったのだから。

もっとも当人はそんな状況はまったく望んではいなかっただろうがな。








三日目のミッドシティだった。
さすがにもうかよいなれたもの。

夜景にも飽きてほとんど窓の外を見ることもない。
定時の午後十一時、最初のメールが届いた。

＞封筒の用意と
＞私書箱の確認をすんだか？
＞今日で最後のメールになるだろう。
＞ユウ、ご苦労だった。

もうすでにすべてが終わったとでもいいたげな文章である。

調子に乗っている。
まだ自分達の手がのびていることをしらないのだ。

液晶画面を確認して、啓太郎はテーブルを離れた。
俺は返信を打とうとして、キーボードに指先をおいた。

そのとき、ごろごろと下水に汚物を流すような音がした。
顔をあげると、窓際で啓太郎がよつんばいになっていた。

頭をだらりとさげて、カーペットのうえに吐いている。

漏らしているのは上だけではなかった。
小便で高価なサマースーツのまえが黒く濡れている。
角田が叫んだ。

「脳卒中だ。わたしは以前の上司を、目の前でなくしたことがある。救急車をよんでくれ！！」

一兆二千億円の個人資産も爆発的な脳血管の破裂にはなんの効果もないようだった。

社長室では誰もが浮き足立っていた。
秘書室の誰かが、携帯で119番している。