「いいや、話を聞きたいんだ。Sウルフのなかで、カズフミと親しかったやつを手配してくれ。」

『どこに』

俺は壁の時計を見上げた。午前十時を少しまわったところ。

これから着替えて、昼飯をくってから出掛けるから……。

「正午に西口公園」

俺はまえの日にはいた軍パンにまた脚を通した。









ケヤキの木陰のパイプベンチには、後ろ髪を軽く結わえた男が座っていた。

要町ニールバンカーは名前だけは恐ろしいが、実に平和的なチーム。

家族バンザイ、友達サイコーの日本のラップシーンにふさわしい半分ボランティアみたいなギャング。

ヘッドの名は確かハニーＢ。
いくら蜂でも呼びにくすぎるストリートネームだ。

そのチームに仮所属してるのが……

「よっす。梓、今日も平和的なギャングやってるか。」

「はは。まぁ、そうかな。悠、なんでも聞いてくれ。キングから連絡は入ってるし。」

アズサはSウルフの正式なメンバーと言うわけではなかった。

ただ西、東のちょうど境に住んでいるのでタカシ、氷室さんが必要な時に声が掛かる中立人物。

なのでチーム内の序列とも関係ない。

梓のポジションと似て非なる俺は両チームのおかしな相談役と言う感じだ。

「おれが知りたいのは、カズフミのことなんだ。ニールバンカーがSウルフでは最初にゴミ拾いに参加したんだよな。きっかけはなんだったんだ」

アズサはあたりをきょろきょろと見ていた。
ゴミでも探して居るのだろうか。

「それはやっぱりカズフミさんのゴミ拾いが衝撃的だったからじゃないかな。」

その気持ちはよくわかった。
俺も誰に頼まれたわけでもないのに集団でゴミ拾いをするガキの出現がショックだった。

「それで声をかけたのか。」

「ああ。そうしたら、自分はゴミ拾いすると、ただ気持ちいいからやってるんだって言うんだよ。知ってるか、あの人、日本の大学をでて、アメリカの大学にいって、どっちでもものすごく優秀な成績だったんだって」

エリート中のエリートなのだろう。
おまけに実家はミッドシティにある桂リライアンス。

「だけど、日本に帰ってきて、おやじさんの会社にははいらなかった。」

「そうだ。」

ゴミのなくなった西口公園を真夏の乾いた風が吹き抜けていった。
噴水が遠くで、白く崩れている。

「それでゴミ拾いを始めた」

アズサは目を細めてうなずいた。

「でも、そいつは小手調べだったんじゃないかなと、俺は思ってるんだ。ミッドシティについては嫌な噂がたくさんあったよな。悠なら詳しいだろ？」

お決まりの地上げ屋なんかのダークな噂だ。