「悠、お前に仕事だ。」

キングのとなりでは王子が微笑んでいた。

「桂リライアンスとカズフミの関係がばれた。ミッドシティの再開発では、桂グループもかなりの無理をしていてな。何件か、脅迫めいたものが届いている。」
「そうか。」

金があるから狙われる。
一番の安全は今の俺のように貧しいことだった。

カズフミがいった。

「今夜はクリーン運動の日で、たくさんの目があるから大丈夫だと思う。タカシくんの所の警護もあるしね。明日にでも、悠くんと話をさせてもらおう」

すると、タカシが俺にポリ袋とトングを差し出した。
「なんだよ？」

「このトングはお前にやる。俺も二時間清掃ができたら心安らぐだろうが、あいにくそんなゆとりはないんだ。メンバーがあれこれと問題を起こしてくれてな」

「あぁ、さいですか…」

気の毒な王様。
数百人だか、数千人だかしらないが、たくさんの領民をもつというのも考えものである。

その夜、俺は顔見知りのSウルフの何人かと、ゴミを拾いながら池袋を歩いた。

公園、地下通路、遊歩道に西口の繁華街と風俗街。
一番した側から見る街は、妙にカラフルで人が溢れているのに、やけに静かだった。

都会にはどれほど人が溢れていても、ぽつりとブラックホールのように無人の場所があるものだ。

そんなスポットにはいると、ネオンの明かりも積み上がった富もやけにスタイルのいい女たちも、すべてが幻に見えてくる。

都会で地面ばかり眺めて、ゴミを拾うのは哲学することによく似ている。

俺たちはそこで世の中の上と下の相対化を学ぶのだ。

アンタも次の月曜日に、池袋西口公園に来てみたらどうだ。
格差なんてちいさな話だってきっと感じると思うよ。





だが、平和な思考は一日と続かない。

つぎの朝、俺はタカシからの電話でたたき起こされることになった。

色っぽい姉ちゃんが横で寝ているベッド……ではなく、広間のソファのうえで携帯を開く。

『悠か、俺だ。』

「んだよ……こんな時間に…」

壁の時計は午前十時すぎ。学校にいかない朝、俺はずっとダラダラしてる。

『カズフミが消えた。』

「なんだって？！」

トランクスとタンクトップで正座する。
髪は当然寝起きでボサボサだ。

とても、俺のファンには見せられないな。

「だって、Sウルフがついていたんだろ。」

歯ぎしりするような声で王様がいった。

『ついていた。ほかにもクリーン運動のメンバーがいたらしい。だが、やつは消えちまった。携帯も繋がらない。自宅は立教通りの先にあるアパートだが、そこにも帰っていない。それで……』

おれは携帯を耳にあてたまま、ズボンをはいているところだった。

「それで、どうした」

『桂リライアンスに電話がはいったようだ。』

「ちょっと待ってくれ。」

なんだか展開が速すぎる。とてもついていけない。

俺はベルトをいつもよりヒトコマきつく締めて、ソファに深く座った。

「なんで、タカシが桂リライアンスの情報を持ってるんだ。誘拐事件なら、警察が動いてるのか。」

やつは電話のむこうで笑った。