ー特別編ーVS不死鳥プロジェクト

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主人公の名前です。
主人公の名前の読みです。

とんだケチがついたが、506号室の鍵を開けるときには、気分は完全に初めて風俗店に足を踏み入れる客になっていた。

別にカズミとなにかするわけではないのだが、妙にあせるものだ。

ゆっくりと鍵を開け、スチールの扉を引いた。

「お帰りなさい、ご主人様。シェリーに、なんなりとおもうしつけてください。」

狭い玄関の奥で、黒いメイド服(ゴスロリドレスに近い)をきたカズミが三つ指をついていた。

このデリヘルはコスプレもありだったのか。
ドアノブをにぎったまま凍りついていると、メイドがいった。

「おはいりください。鍵を開けたときから時間のカウントは始まってますよ。」

妹によく似た姉だった。
黒のメイド服のせいで、イメージはだいぶ違うけれど。

おれは昔ながらのバスケットシューズを脱いで、部屋に上がった。

ごくあたりまえのフローリングのワンルームの中央には、キングサイズの巨大なベッドがおいてある。

壁際に寄せられたソファーは子ども用かというおおきさで、てかてかの白いビニール製だった。

「おれは小鳥遊悠、今日は客としてきたわけじゃない。」

ポケットからイクミの写真をだしながら、ソファーに腰を落とす。
カズミの顔色が変わった。

「また、あの子か。もういい加減放っておいてもらいたいんだけど」

カズミはベッドで足を組んだ。
小バラの模様が浮き出た黒いストッキング。足の形はいいようだ。

「どうしてだ。こんなところで天職でも見つかったのか」

カズミはキッとおれをにらんだ。おっかないメイド。
「うるさいよ。よその家のことなんて、関係ないアンタにはわからないだろ。あの子は小さい頃から、なんでもわたしの真似をした。おまけに何をやっても、わたしより上手だったんだ。」

ポシェットからタバコを抜いて、深々と吸う。
メイドは天井に向かって、細い煙を吹き出した。

「それでダイキみたいなホストのくずにはまったのか。」

カズミは虫でも見つけたようにおれを見た。

「あんな男はどうでもいいの。音楽が好きだといっても、Jポップのヒット曲しか知らなかったし。わたしにとってのピアノは、生まれて初めての真剣になったものだったんだ。五歳から初めて、そのとたんに分かった。この楽器は自分のためにあるんだって。何時間練習しても苦にならなかった。ピアノの先生や親から、練習禁止っていわれるくらいだった。それ以上やったら手を壊しちゃうって。おおきなコンサートホールで、ショパンやリストやラフマニノフを弾く。田舎の小学生の女の子の夢だったんだよ。」

「そうか。おれもショパンの前奏曲のリストの『巡礼の年』なんかは好きだよ。今じゃ弾けるかはわかんないけど。」

ちらりと横目でおれを見て、水銀と…もとい黒いメイドはいった。

「イクミがピアノの始めたのは四歳だった。結果はお絵描きや算数や英語と同じ。あの子はなにをやっても半分の時間でわたしよりも上手くなる。」

また、タバコの煙を吹き上げた。
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