ー特別編ーVS不死鳥プロジェクト
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「ラブネスト」はロマンス通りのつきあたりにある七階建てのビルだった。
遥か以前は焼肉屋やクラブがはいっていたが、不景気ですべての階が風俗店になった。
そのヘルスビルを池上組系列のフロント企業・二十一世紀リゾートが買い取って最新型のデリヘルに改装したというわけ。
池袋の繁華街にあるビルには、みんなそれぞれの歴史がある。
まあ、やけにおしぼりやローションなんかが消費される歴史なんだけど。
一階にあるフロントの小窓の向こうにおれはいった。
「予約した小鳥遊だけど」
「はい、お待ちしていました。シェリーさんですね。今、お部屋の準備をしますから、ロビーでお待ちください。」
フロントまえのロビーは広く、オープンカフェのようにテーブルセットがならんでいた。
エレベーターのわきではちいさな噴水が涼しげな水音を立てている。
待ったのはせいぜい六、七分だったと思う。体感時間は二時間くらいに感じたけどね。
「お客様、どうぞ、506号室になります。」
フロントで鍵を受け取り、エレベーターにむかった。タイミングよくドアが開いて、おれが入ろうとすると、なかから男が飛び出てきた。
チャコールグレイのスーツの三十代。
髪は銀行員のようになでつけている。
おれと肩がぶつかって、手にしていたノート型パソコンを落とした。
がしゃんと派手な音がする。
「気を付けろ」
おれのほうを見ずにそう叫ぶと、男は慌ててパソコンを拾い上げた。
傷ついていないかどうか確かめている。
「壊れていたら、弁償させるぞ!」
面倒なオタクとトラブルを起こしてしまった。
せっかくこれからカズミと話をしにいくのに最悪のタイミングだ。
おれはしかたなくいった。
「悪かったな。でも、そっちもおれのほうを確かめずにおりてきたよな」
「うるさい。おまえ、名刺をもってないのか」
あいにく生まれてから一度も名刺などもったことがなかった。
男はポケットから自分の名刺をだすといった。
「そこに携帯電話の番号と名前を書いてくれ。なにかあれば、あとで連絡する。」
おれは男のもっていた水性ボールペンで、本名と番号を書いた。
男はすぐに自分の携帯で、おれの電話番号を打った。
おれの軍パンのポケットで、マナーモードの携帯がうなりだした。
男はにやりと笑うと、もう一枚の名刺をおれに差し出した。
「番号はでたらめじゃないようだな。わたしは、こういうものだ。」
おれは名刺に目をやった。
㈱二十一世紀リゾート
総務部長・梅中司郎
親会社の人間が現場の視察にでもきたのだろうか。
「急いでいるから、また」
おれは男の灰色の背中を見送った。
中年太りの始まりかけた丸い背中が妙にせこせこと遠ざかっていく。
最近はノートパソコンなど安いものだった。
なかのデータさえ失われていなければ、弁償といってもたいしたことはないだろう。
あらためてエレベーターに乗り込むときには、おれは梅中という男のことなど、すっかり忘れてしまった。
遥か以前は焼肉屋やクラブがはいっていたが、不景気ですべての階が風俗店になった。
そのヘルスビルを池上組系列のフロント企業・二十一世紀リゾートが買い取って最新型のデリヘルに改装したというわけ。
池袋の繁華街にあるビルには、みんなそれぞれの歴史がある。
まあ、やけにおしぼりやローションなんかが消費される歴史なんだけど。
一階にあるフロントの小窓の向こうにおれはいった。
「予約した小鳥遊だけど」
「はい、お待ちしていました。シェリーさんですね。今、お部屋の準備をしますから、ロビーでお待ちください。」
フロントまえのロビーは広く、オープンカフェのようにテーブルセットがならんでいた。
エレベーターのわきではちいさな噴水が涼しげな水音を立てている。
待ったのはせいぜい六、七分だったと思う。体感時間は二時間くらいに感じたけどね。
「お客様、どうぞ、506号室になります。」
フロントで鍵を受け取り、エレベーターにむかった。タイミングよくドアが開いて、おれが入ろうとすると、なかから男が飛び出てきた。
チャコールグレイのスーツの三十代。
髪は銀行員のようになでつけている。
おれと肩がぶつかって、手にしていたノート型パソコンを落とした。
がしゃんと派手な音がする。
「気を付けろ」
おれのほうを見ずにそう叫ぶと、男は慌ててパソコンを拾い上げた。
傷ついていないかどうか確かめている。
「壊れていたら、弁償させるぞ!」
面倒なオタクとトラブルを起こしてしまった。
せっかくこれからカズミと話をしにいくのに最悪のタイミングだ。
おれはしかたなくいった。
「悪かったな。でも、そっちもおれのほうを確かめずにおりてきたよな」
「うるさい。おまえ、名刺をもってないのか」
あいにく生まれてから一度も名刺などもったことがなかった。
男はポケットから自分の名刺をだすといった。
「そこに携帯電話の番号と名前を書いてくれ。なにかあれば、あとで連絡する。」
おれは男のもっていた水性ボールペンで、本名と番号を書いた。
男はすぐに自分の携帯で、おれの電話番号を打った。
おれの軍パンのポケットで、マナーモードの携帯がうなりだした。
男はにやりと笑うと、もう一枚の名刺をおれに差し出した。
「番号はでたらめじゃないようだな。わたしは、こういうものだ。」
おれは名刺に目をやった。
㈱二十一世紀リゾート
総務部長・梅中司郎
親会社の人間が現場の視察にでもきたのだろうか。
「急いでいるから、また」
おれは男の灰色の背中を見送った。
中年太りの始まりかけた丸い背中が妙にせこせこと遠ざかっていく。
最近はノートパソコンなど安いものだった。
なかのデータさえ失われていなければ、弁償といってもたいしたことはないだろう。
あらためてエレベーターに乗り込むときには、おれは梅中という男のことなど、すっかり忘れてしまった。