だらだらと続く夏の余韻が、東京中に色濃く残っていた。

ハリケーンも台風も、でたらめな暑さもぜぇんぶ地球温暖化のせいだという。

そうなると、おれの退屈もきっと異常気象のせいなのだろう。

夏の山場を終えてからこのかた、いくら寝てもやる気がでないのだ。

季節の変わり目によくある身体の変調だが、夏の暑さのピークが高くなって、ダルサもいよいよ最高潮だった。

だが俺の気分がローダウンしてるのは、なにも気候のせいばかりではなかった。

一つは永遠子(トワコ)…大玉砕した恋ですよ…。
これは、まだいい…。

いや、よくは無いんだけど…

問題はもう一つの方だ。
ここ一ヶ月前から街がいかれてしまったことだ。

あるひと晩を境にして、街は縮みあがってしまった。

八月のなかばの夜十時、西口の劇場通りと東口の60階通りに灰色のバスが止まった。

目撃者(たいていはキャッチの男や女たち)の証言によって数はまちまち。

ある男は三台ずつだといい、あるフィリピーナは戦争ができるくらいのバスが通りを壁になって埋め尽くしたという。

機動隊がのる窓に金網が張られたあの灰色のバスの壁である。

おれは何台のバスが池袋に乗り付けたのか、正確には知らない。

けど、警察車輛に乗ってきた男たちの数なら知っている。

西口に六百人、東口に五百人。

警視庁と入国監理局の男たちが総計で千百人、なんの予告もなしに街を襲撃したのだ。

そいつは翌日の新聞記事にちゃんと書かれていた。

きっと懸命に街の清掃活動に取り組んだとアピールでもしたかったんだろうな。

東京都の役人は数字には正確だ。

金曜日の夜、風俗街のメインストリートの両端を固めるのは、腰に警棒と短銃をさげ、ヘルメットをかぶった若い機動隊員だった。

やつら自身、その日になるまでどんな任務で駆り出されるのか知らなかったという。

成果も派手だった。

八月十二日深夜から十三日早朝にかけて行われた一斉取り締まりで、外国人男女二百三十七人を検挙。

個室マッサージ店など二十九店を立ち入り調査、組関係の事務所十一ヵ所を家宅捜索したという。

それがこの街の裏側じゃあ、誰も知らぬ者がない8･12の衝撃だ。

次の朝から、外国人キャッチは街から一人もいなくなった。

女たちも男たちも、池袋から消えたのだ。

死に絶えた夜の通りには、ホストと黒人のよびこみが少々。

やつらはビザの問題がないアフリカの国々からやってきた。

仕事はそのまま続けられる。

そのほかの数十カ国の外国人、いや世界の友邦の人たちとは違ってね。