俺に新しい名刺をわたすと、あのくしゃくしゃの笑顔を見せた。

「ぼくも事務所にはいったよ。もう風俗はやめた。ここの会社はちゃんとしたモデルクラブで、今度はスカウトした子を本物のスターにするんだ。女の子に食べさせてもらうという点では、今までも変わらないけどさ。ぼくは女の子に声をかける以外にできることないから。」

俺はなぜかしっくりと似合っているジャケットの肩をたたいた。

「原宿じゃなく池袋でスターの卵なんて見つかるのか？」

タイチはガードレールに座ったまま、ケヤキ並木の空を見上げる。

雲も、太陽も、空の遥か高みだった。風は冷たく澄んで、残暑の終わりを告げている。

「なんだ、悠さん知らないの。今、きれいな女の子はみんな池袋に集まってるんだよ。柴咲コウだって、優香だってスカウトされたのはこのまちなんだ。」

残念ながら、俺の目はきっと節穴なのだろう。池袋には二十年以上暮らして、そんな美人にはお目にかかったことがないのだ。

「そうか。ま、タイチなら余裕だろ。」

俺はタイチとハイタッチをして別れた。
今日は拳二達を接待しなければならないのだ。

あぁ、達っていうのはどういう訳か崇を初めＳウルフのNo.sに、果ては梓や澪まで……

帰る頃にはすかんぴんになるだろう。

はぁ、本格的な寒さがやってくるまえに、俺も本気でそう悪くない女の子でも探そうかと思った。

だって街を彷徨き続けることなら、俺がスカウトマンに負けるわけがない。

きっと大丈夫、いつかは俺の隕石が空を駆けてくる。そうでも思わなきゃ、こんなバカな街で…生きてはいけないよな。