何曲目かが終わると少女はまた、元気よく叫んだ。

「みんな、ありがとー！」

No.sはもちろん、一階からも拍手の音が聞こえてくる。どうやらライヴカメラで映像を映していたらしい。


三本目のボトルを開けながら俺は崇にいった。

「あの子の紹介してくれないのか？」

「本人に聞け。」

崇が視線をあげる。
少女と本郷が他のメンバーにタッチをしながらこっちに来る。

「どうも、たかしさん。いかがでしたか？」

白いシャツに薄紫のリボンタイ。
袖が長めの黒いブレザーは金のボタンがついている。下は白銀色のプリーツスカートに黒のニーソ。

なんだか凄く優良な高校の学生服みたいな格好だ。

「十分だ。」

王様は一声だけで済ました。誉め言葉も早く簡潔に鋭いのだ。

「ありがとうございます♪……えと、そちらは？」

少女は元気いっぱいの笑顔で返事をして俺を見た。

「あぁ…コイツが小鳥遊悠だ。」

「あ……。アナタが小鳥遊くんですか！はじめまして！あたしの声気に入ってくれたんですよね。」

歌っていた時とは打って変わって地声はかなりのアニメ声だ。

たしか前に一度取り次ぎで聞いたことがある。

「あぁ。歌声も地声もいいな。俺は小鳥遊悠。アンタは？」

「はい、ギフトっていいます。」

「また、物騒な呼び名だな。」

ギフト=giftはドイツ語では「毒」って意味だ。

「え？毒って意味だったんですか？」

ギフトが驚いた顔で後ろを見る。

本郷はサングラスを指先で直しながらフッ…と笑った。

「ところで本名は？(気づいてなかったのか…)」

「あ、宗方六花(むなかたりっか)だよ。なんでも聞いてください。」

「じゃあ、職業は？」

「職業・高校二年生兼バイトのシスター。」

「趣味は？」

「趣味・バントと池袋の放浪。」

「特技は？」

「特技・絶対音感と足技。」

「Ｓウルフとの関係は？」

「長いので詳しくは省略して、たかしさんの依頼で探偵をしてます。」

「え？」

「言っただろ。ギフトは新戦力候補だ。お前ほどの腕も頭もないがそれなりに使える。」

崇はグラスを揺らしながらいった。どうやら、りっかはＳウルフ専属の探偵になるみたいだ。

「へぇ…じゃあ今日の下着の色は？」

「白で、ネコのにくきゅうのマークが入ってます。……って何聞くんですか！」

「いゃぁ、まさか本人に答えるとは…」

この子、かわいいけど結構頭悪いな。

「もう！お返しに小鳥遊くんの下着の色もおしえろー！」

「ねずみ色だ。っか、聞いてどうしたい…」

意味のわからないやり取りをしてると急に弦楽器の音がした。

店内には曲が流れ出す。

「モーツァルト。「ドンジョヴァンニ」か。」

ドンジョヴァンニは希代のプレーボーイが、石像の騎士につれられて地獄に堕ちるまでを描いたオペラの傑作だ。

「小鳥遊くん。なかなか音楽の趣味がいいですね。、これがどんなふうにきいても、自分の欲望に忠実な主人公の女たらしだけがまともで、まわりの登場人物はみんな間抜けに見える曲ですよね。」

六花の考えと俺は同じだった。