顔を洗うと幾分か頭の熱が冷めた。

俺は廊下を歩きながら考えていた。

俺とタイチやともきで何が違うのかと、女と話すのなら俺だって少なからずある。

「…えーと」

エロ話、料理話、アニメ、ゲーム、マンガ話…
内容は基本的に男のダチと変わらない。

「あー…こりゃあかんわな。」

悲しい事に俺という人間はエロ気はあっても色恋気とはほど遠い存在なのだ。

自己嫌悪しつつ歩いてると後ろから声をかけられた。


「悠。廊下でふらふらとしてるのは他の生徒の通行の邪魔になる。」

「あ゛？」

こんな真面目な事を言ってくるのは一人しかいない。
振り返って見るとさっぱりしたショートで上から下まで制服をキッチリと着た坂神まゆが立っていた。

そして、隣にはモミアゲと後ろ髪が長い男子生徒がいてまゆに捕まっている。

「それ誰だ？」

「あぁ、彼は僕と同じクラスの桐島梓(きりしまあずさ)君だ。何度か注意したが制服を正さないのでちょっと生徒会議室の掃除を頼もうと思ってね。」

「ふぅん。」

俺はアズサを見た。
シャツのボタンを2つ外して裾を出しているが…男子生徒ならそのくらい仕方ないだろう。

俺はなんとなく提案を出した。

「なぁ、まゆ。良かったらソイツ貸してくれないか。」

「どうして？」

「これからちょっと用事があるから、荷物運んでもらいたいんだ。掃除っても生徒会議室なんて汚れてないだろ？」

まゆはあごに手をそえてうなずいた。

「成る程、わかった。桐島君。彼の言うことをよく聞くように。それじゃあ、任せたよ悠。」

まゆはアズサから手を離して、廊下を反対に歩いていった。

見えなくなったところで俺はアズサにいった。

「よし…。もぅいいぞ。」
「え、荷物は？」

俺は笑いながら手をプラプラと振った。

「あ～嘘だ嘘。まぁ、まゆはちょっと厳しいけどさ基本的にはいい奴だから。アイツの前だけは少しキチンとしとけよ。」

「わかってるけど…面倒なんだよ。」

アズサは頭をかいた。
面倒って言い方になんだか少し親近感が沸いた。

「正直な奴だな。」

「アンタもな。けど、礼は言わせてくれ…えーと？」

「あぁ、悪い。自己紹介してなかったな。3ｰBの小鳥遊悠だ。一応生徒会長補佐とかもしてる。」

「あー。そうだ。その前髪見たことあると思った。」

「前髪って…」

どういう、覚えられかただろう…

「結構有名だぞ。前髪をあげると第三の目があるとか貞子の親類とか…」

「なんだその微妙な有名加減は…どっちにしても化け物じゃん…」

どうやら学校ではいい噂は流れていないらしい。
俺は行こうとすると、アズサがいった

「確か他にも気前がいいとか、優しいとか…結構女子からその手の話を聞くな。」

「ふん。そんな根も葉も無い噂。……さて、梓君。良かったら何かご馳走しようか？」

俺は微笑んでアズサの肩に手を置いた。

「あざっす。ゴチになります。」

俺たちはそのまま購買に向かった。

やっぱり、噂の情報元を確かめとくのは大切だよな？