夏のあいだは締め切りだった大きな窓を解放して、喫茶店はオープンカフェのような雰囲気だった。

サンシャインシティにむかうおしゃれな人の流れと、きらきらとクロームのパーツを光らせて通りすぎる新型の自動車。

手を伸ばせばすぐのところに、街の動きが眺めれる。
俺たちは半分ほど埋まった店のなか、交差点を見渡すかどのテーブルに席をとった。

腰をおろすまえに声をかけられた。

「いらっしゃいませ。今日は初めてだね、タイチ君。」

氷水のグラスをおきながら、ウエイトレスは俺を無視してとろけるような視線でスカウトマンを見つめた。
コケティシュなタイプの短髪の女だった。笑うと目が三日月形になる。すごく…良い。

ここの制服はスカートの裾からフリルがのぞくコスプレ風だ。フリルのしたはスベスベの生足。

「しのぶちゃん、アイスオーレふたつ」

名前を呼ばれただけで、子犬のようにウエイトレスは喜んだ。
やけにノロノロとカウンターに戻っていく。

俺は感心していった。

「なぁ、どうすれば、あんなふうな目で女に見られるんだ？」

タイチは困った顔をする。

「みんなそういうけど、自分でもよくわからないよ。秘訣なんてないと思うけど。」

「本当か？何か特別な手腕や話術があるんじゃないのか。」

「う～ん…ぼくがやってることなんて、ふたつだけだよ。」

「あ、ちょっと待て。」

俺はポケットから手帳と水性のボールペンを取り出した。
最近はいつでもこの手帳を常備しているが今日ほどありがたいと思ったのは初めてだ。

「OK、続けてくれ。」

「うん。」

タイチはまたあの笑顔を見せた。なぜか男の俺まで、胸がきゅっとなる危険なキュートさ。

「ぼくがやってることなんて、ぜんぜん珍しくないよ。まず、どんなにおかしなことでも、女の子の話はすべてきく。」

俺は一字一句をメモに取った。これくらいなら自分でも出来そうな気がした。

え？必死過ぎだって？
うるさいな、少しくらいいいだろ！

「常識的な説教とか、偉そうな理屈とか、あとでやれそうな下心はなしでだよ。簡単そうに見えて、これが一番むずかしいんだ。」

確かに男たちは自分を実際より立派で賢くセクシーに見せたがる悪い癖がある。
タイチはこともなげにいった。

「あとはね、女の子って急に気持ちが揺れるときがあるでしょう。理由もなくはしゃいだり、落ち込んでみたり。そういうときは黙ってそばにいてあげる。ただ手を握っていてあげるんだ。何時間でもね」

俺は気弱そうなスカウトマンに目をあげた。

「誰きに教えられなくてもそんな事が自然にできるのか？」

「うん。教えるとかじゃなくて当たり前っていうのかな。ただ話すだけだよ。」
どうみても俺より年下にみえるが…やはり才能に年齢は関係ないのだろうか。

「あのさ、タイチっていくつだ？」

「二十一」

「お、年上だったか…」

そりゃそうかキャッチを未成年にやらせる訳がない。