「あの、小鳥遊悠さんでいらっしゃいますか？」

ストリートのトラブルシューターは顔をあげた。
あ、俺のことね？

その先にはツープライトストアでかった298のスーツを着た太った会社員。

胸より腹のが出てるなんていっちゃ悪いがたるみすぎ。まだ若いのに。

「俺が悠だけど。」

「そうですか…」

暑苦しい声でやつはいった。
どうやらがっかりしたようだ。
なぜか俺の依頼人はみな、最初に俺を見るとそういう態度をとる。

みな人を見る目がないのだ。

「あんた、どこの会社の人だ？俺に用があるのか」

少しムスっとした態度で見た。
すると流石は会社員らしくそつなく答えた。

「先程、カラスさんから聞きました。小鳥遊さんは池袋の有名な探偵なんですよね。」

こういうときは素直に喜ぶかお礼を言うべきだろうか？

あと、カラスは禅のペンネームみたいなもの。
こういう仕事や人を紹介する時は絶対に本名は名乗らずに会いもしないらしい。
まぁ、物凄く近くにいるけどな。

「そんなもんだけど、用件があるなら座りな……」

やつは切羽詰まった声で、俺を遮った。

「お願いです！池袋で困ってる女性がいるんです！いいこなんです！エリちゃんはあとひと押しで、向こう側に転げ落ちてしまう！助けてください！私は原田忠則と申します。お願いします助けてください！」

いきなり手を握られた。
いったい今の間で何回助けてくださいって言われたのやら……

「わかったから、変なことしないでくれ。」

俺はやつの手を振り払った。
このままだと手の甲にキスされる気がした。

「とりあえず、話は聞くから座ってくれ。」

「はい…」

忠則はまだ肩で息をしながら席につく。

「あの…だせる限りは出しますけど、わたしはあまり持ち合わせがなくて」

リーマンらしい心配だ。

「俺の噂、ほんとよくきいてないみたいだな。一応、基本的に経費以外はいらない。」

「あ、はい」

パァっと明るくなるがおっさんの笑顔なんぞ…

「けど、先に釘刺しとくぞ。浮気調査や取引先の信頼調査みたいなことはしないし、あんたの事件が面白くなくてもダメ。それとこれが重要。俺の事は悠って呼んでくれ。」

暑がりなんだろうか、俺が持ってきていた、冷水(氷入り) をごくごく飲み干して忠則は言った。

「小鳥遊さん、いや、悠さんは出会い系喫茶とか、出会い部屋とかしってますか。池袋にも何店舗かあって、一番有名なのがカプルっていうんですけど。」

「全然知らない。(…ターンＡのカプルならしってるが。)」

俺は風俗に興味はない。

まったく、サブプライムローンとかCDSとか、出会いカフェとか意味不明な単語が多い時代だ。