ー特別編ーブラックアウトの夜
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あたしが返答に困ってるとタカシがあたしを横目で見ていう。
「そうだな。この街にはたまにはそんな悪が必要なんだろうな。あのガキには新しい働き口がいるんだろう」
あたしがうなずくとタカシはいった。
「なにか適当に考えておいてやる」
この王様のために命を張るストリートギャングが池袋には何十、何百人もいる。
その理由がすこしだけわかった気がした。
タカシはサヤーとサヤーの父親のために練馬にある衣料品倉庫の仕事を見つけてくれた。
広い倉庫に積まれた服を小売店の注文に応じてピックアップして箱詰めする作業で、肉体的にはそれほどしんどくないのだという。
サヤーは放課後、ウームは毎日午後の数時間を倉庫で働き、なんとかデリヘルで稼いでいた額の穴埋めをすることができるようになった。
だけど、それでも一家が健康保険に加入したり、もっと広い部屋に越すのはとても無理な相談だった。
日本では難民にとって天国なんかではないのである。
だから土曜日など、サヤーはいまだに痛んだ果物を受け取りに、うちの店にやって来るのだ。
その日は少し風があって、すごしやすい夏日だった。
サヤーはすっかりうちの母と仲よくなり、店の奥のテレビで夏の高校野球を見ていた。
あたしは店先にしゃがんで、黄色いホームランメロンでカットフルーツづくり。
茶色に腐った部分を包丁で切り落としてると、頭の上から声がした。
「よう、リッカ、メロンもらいにきたぞ」
池袋署の佐伯だった。
「おまえたち、今回はうまくやったな。あのラワディって男は、オーバーステイが発覚して、今じゃあ池袋署から出入国管理局に身柄を移されたってよ。」
そういうと佐伯は店の奥にむかって手を振った。
サヤーは生活安全課と少年課の両部で調書を取られた。
少年課の担当は佐伯で、生活安全課の担当は柏というひと。
ふたりはすでに顔見知りだった。佐伯はサヤーにむかって声をあげた。
「元気でやってるか。リッカみたいな貧乏でだらしない大人になるなよ。」
あたしは皮をむいたメロン四分の一個に割り箸をとおし、佐伯にわたしてやった。
「よくいうわよ。自分だって中高とも不良だったくせに。」
あたしが警察で世話になってるとき、佐伯はよく自慢していた俺も昔悪だったって……。
ただ、あたしもサヤーのように純真だった。
十年後のあたしとサヤーのことを考えた。
けれど、どれほど創造力を駆使したところで十年後の未来など予想できるはずなんかないのよね。
だから、あたしたちは平気な振りで今日を生きていられるのだ。
あたしは店の奥に叫んだ。
「サヤー、アナタも来なよ。メロン食べよー。」
それであたしたち貧しい三人は、さんさんと輝く太陽の下、西一番街の歩道に並んで黙々とメロンを食べた。
自分の好きな街を眺めながら立ち食いするメロンの味は格別よね。
佐伯は割り箸を捨てると歩道を池袋署に戻っていった。
まだ書類仕事が残っているのだという。
貧乏な上に多忙な刑事。
サヤーは佐伯のデカイ背中にむかって合唱した。
そのときあたしがどうしていたかって?
ここだけの秘密だけど、あたしもサヤーといっしょにやつの背中に両手をあわせていたのだ。
だって尊敬できる人間かどうかは、そいつが持ってるお金や、性格の悪さにはなんの関係もないからね♪
ブラックアウトの夜・完
「そうだな。この街にはたまにはそんな悪が必要なんだろうな。あのガキには新しい働き口がいるんだろう」
あたしがうなずくとタカシはいった。
「なにか適当に考えておいてやる」
この王様のために命を張るストリートギャングが池袋には何十、何百人もいる。
その理由がすこしだけわかった気がした。
タカシはサヤーとサヤーの父親のために練馬にある衣料品倉庫の仕事を見つけてくれた。
広い倉庫に積まれた服を小売店の注文に応じてピックアップして箱詰めする作業で、肉体的にはそれほどしんどくないのだという。
サヤーは放課後、ウームは毎日午後の数時間を倉庫で働き、なんとかデリヘルで稼いでいた額の穴埋めをすることができるようになった。
だけど、それでも一家が健康保険に加入したり、もっと広い部屋に越すのはとても無理な相談だった。
日本では難民にとって天国なんかではないのである。
だから土曜日など、サヤーはいまだに痛んだ果物を受け取りに、うちの店にやって来るのだ。
その日は少し風があって、すごしやすい夏日だった。
サヤーはすっかりうちの母と仲よくなり、店の奥のテレビで夏の高校野球を見ていた。
あたしは店先にしゃがんで、黄色いホームランメロンでカットフルーツづくり。
茶色に腐った部分を包丁で切り落としてると、頭の上から声がした。
「よう、リッカ、メロンもらいにきたぞ」
池袋署の佐伯だった。
「おまえたち、今回はうまくやったな。あのラワディって男は、オーバーステイが発覚して、今じゃあ池袋署から出入国管理局に身柄を移されたってよ。」
そういうと佐伯は店の奥にむかって手を振った。
サヤーは生活安全課と少年課の両部で調書を取られた。
少年課の担当は佐伯で、生活安全課の担当は柏というひと。
ふたりはすでに顔見知りだった。佐伯はサヤーにむかって声をあげた。
「元気でやってるか。リッカみたいな貧乏でだらしない大人になるなよ。」
あたしは皮をむいたメロン四分の一個に割り箸をとおし、佐伯にわたしてやった。
「よくいうわよ。自分だって中高とも不良だったくせに。」
あたしが警察で世話になってるとき、佐伯はよく自慢していた俺も昔悪だったって……。
ただ、あたしもサヤーのように純真だった。
十年後のあたしとサヤーのことを考えた。
けれど、どれほど創造力を駆使したところで十年後の未来など予想できるはずなんかないのよね。
だから、あたしたちは平気な振りで今日を生きていられるのだ。
あたしは店の奥に叫んだ。
「サヤー、アナタも来なよ。メロン食べよー。」
それであたしたち貧しい三人は、さんさんと輝く太陽の下、西一番街の歩道に並んで黙々とメロンを食べた。
自分の好きな街を眺めながら立ち食いするメロンの味は格別よね。
佐伯は割り箸を捨てると歩道を池袋署に戻っていった。
まだ書類仕事が残っているのだという。
貧乏な上に多忙な刑事。
サヤーは佐伯のデカイ背中にむかって合唱した。
そのときあたしがどうしていたかって?
ここだけの秘密だけど、あたしもサヤーといっしょにやつの背中に両手をあわせていたのだ。
だって尊敬できる人間かどうかは、そいつが持ってるお金や、性格の悪さにはなんの関係もないからね♪
ブラックアウトの夜・完