ー特別編ーブラックアウトの夜
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「ほんとうなら、とうさんを日本の病院に連れていきたいけど、うちは健康保険にもはいっていないからだめなんだ。去年の終わりにマが三日間も四十度以上の熱をだしたけど、かあさんがあちこちで頭をさげてお金を借りてくるまで、病院にはいけなかった。だからいったでしょう、この国だって天国じゃないんだって。ねぇ……リッカさん、ぼくはどうしたらいいの」
サヤーは目をおおきくひらき真っ赤にしていたけど、じっとカメラを見つめて涙を落とさなかった。
「ダメ。ダメよ。サヤー。誰かにどうしたらいいか聞いてたんじゃ、どこにいっても同じだよ。自分がどうしたいのか、なにを望むのか、自分で決めるの。それができないと、何千キロも海を越えて日本まできた価値がないじゃない。アナタのとうさんが命がけで欲しがった民主主義なんだよ。こっちの世界は確かに天国じゃないし、くだらないところだけど、それでも自分の人生は自分で選べるの。」
あたしは一度深呼吸して、ハッキリといった。
「いい、よく聞いて、サヤー。アナタはどうしたい?厳しくても自分で考えて、未来を決めろ。」
サヤーは涙をこらえたまま、怒ったような顔でしばらく考えていた。
あたしはやつの顔を見つめてただじっと待った。
もうなにもいうことはない。
あたしはサヤーが今の生活を続けるというなら、そこで手を退くつもりだった。
そのときビルマからきた少年は、出会ってからはじめての激しさをあたしに見せた。
目を光らせて叫ぶ。
「ぼくはもう身体を売りたくない。ガロンの部屋でなく、うちに帰りたい。学校もいきたいし、高校にも進学したい。日本でがんばって働いて、いつかうちの家族みんなをしあわせにしてあげたい!」
ひと息で言い切ると、サヤーは大声をあげて泣き出した。
ラヴホテルの分厚い壁と防火扉のせいで、その声は外の世界にはきっと聞こえなかったと思う。
だけど、サヤーの声はあたしの胸に響いた。
少年が十四年間の生涯で初めて、自分の人生を選んだ言葉なのだ。
「うん。わかったよ。よく決めたね、サヤー。あとはあたしがなんとかする。」
できるかできないかじゃなかった。
どうあっても何とかするしかない。
あたしはすべてをひとりで耐えてきたサヤーにそう約束したのだから。
そなえつけの冷蔵庫からスポーツドリンクを抜いて、サヤーのまえにおいてやった。
あたしは少年のやせた肩をそっとたたいた。
「ここからは証言になる。きちんと答えてね」
サヤーはおびえた表情をした。
「身体を売ってるぼくは、犯罪者にならないの」
あたしはおおきくうなずいてやった。
それはガタさんにもう千円払って調査済み。
「雇い主のほうは犯罪者だけど、法的にサヤーは被害者。警察で調書をとられるけど、すぐに帰してくれる。まあ、おふくろさんには連絡がいくだろうけどね。いい、始めるよ。」
あたしはサヤーのむかいのソファで姿勢をただした。
サヤーは目をおおきくひらき真っ赤にしていたけど、じっとカメラを見つめて涙を落とさなかった。
「ダメ。ダメよ。サヤー。誰かにどうしたらいいか聞いてたんじゃ、どこにいっても同じだよ。自分がどうしたいのか、なにを望むのか、自分で決めるの。それができないと、何千キロも海を越えて日本まできた価値がないじゃない。アナタのとうさんが命がけで欲しがった民主主義なんだよ。こっちの世界は確かに天国じゃないし、くだらないところだけど、それでも自分の人生は自分で選べるの。」
あたしは一度深呼吸して、ハッキリといった。
「いい、よく聞いて、サヤー。アナタはどうしたい?厳しくても自分で考えて、未来を決めろ。」
サヤーは涙をこらえたまま、怒ったような顔でしばらく考えていた。
あたしはやつの顔を見つめてただじっと待った。
もうなにもいうことはない。
あたしはサヤーが今の生活を続けるというなら、そこで手を退くつもりだった。
そのときビルマからきた少年は、出会ってからはじめての激しさをあたしに見せた。
目を光らせて叫ぶ。
「ぼくはもう身体を売りたくない。ガロンの部屋でなく、うちに帰りたい。学校もいきたいし、高校にも進学したい。日本でがんばって働いて、いつかうちの家族みんなをしあわせにしてあげたい!」
ひと息で言い切ると、サヤーは大声をあげて泣き出した。
ラヴホテルの分厚い壁と防火扉のせいで、その声は外の世界にはきっと聞こえなかったと思う。
だけど、サヤーの声はあたしの胸に響いた。
少年が十四年間の生涯で初めて、自分の人生を選んだ言葉なのだ。
「うん。わかったよ。よく決めたね、サヤー。あとはあたしがなんとかする。」
できるかできないかじゃなかった。
どうあっても何とかするしかない。
あたしはすべてをひとりで耐えてきたサヤーにそう約束したのだから。
そなえつけの冷蔵庫からスポーツドリンクを抜いて、サヤーのまえにおいてやった。
あたしは少年のやせた肩をそっとたたいた。
「ここからは証言になる。きちんと答えてね」
サヤーはおびえた表情をした。
「身体を売ってるぼくは、犯罪者にならないの」
あたしはおおきくうなずいてやった。
それはガタさんにもう千円払って調査済み。
「雇い主のほうは犯罪者だけど、法的にサヤーは被害者。警察で調書をとられるけど、すぐに帰してくれる。まあ、おふくろさんには連絡がいくだろうけどね。いい、始めるよ。」
あたしはサヤーのむかいのソファで姿勢をただした。