ー特別編ーブラックアウトの夜
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「ガロンの部屋」
あたしはビデオカメラの横につきだした液晶モニターを見た。
そこには実際のラヴホテルの一室より鮮やかな映像がまばゆく映し出されていた。
つらそうなサヤーの顔さえ南の国の航空会社がつくった観光フィルムのモデルみたい。
「昨日の夜中にご両親がうちの店にきたとき、あのラワディって男の名前をだした。アナタの親父さんはその名前をきいて、黙って帰っていったのよね。どこか様子がおかしかったと思う。あの運転手と親父さんにはなにか関係があるの?」
サヤーはカメラのレンズをじっと見つめた。
「ここのところはつかわないと約束してくれる?」
あたしがうなずくとサヤーは低い声でいった。
「ガロン・ラワディととうさんは、ビルマで同じ刑務所にはいっていた。ガロンもとうさんもヤンゴン大学の民主活動家だったんだ。」
それなら同じサイドで闘っていたはず。
普通ならなんの問題もない。
サヤーは続けた。
「ガロンは拷問にあっても口をわらなかったけど、うちのとうさんは違った。とうさんが刑務所にはいっていたころ、かあさんはぼくを妊娠中だった。刑務所のなかでは何人も同志が死んでいく。とうさんはかあさんのところに帰るために必死だったんだろうと思う。」
隅々まで光のあたったサヤーの顔が歪んだ。
続きはあたしにも想像がつく。
サヤーは絞り出すようにいった。
「とうさんは勇気のない人間なんかじゃない。まだお腹の中にいるぼくとかあさんのために、仲間の名前をいったんだ。ガロンはそれで何人も活動家が軍に捕まり、拷問され死んでいったといっている」
あたしは息を飲んでサヤーの話を聞いていた。
平和な日本では想像もできない話だけど、ビルマの軍事政権は現在も続いている。
日本政府からは経済援助もたっぷりと流れているのだ。
「だけど、もう家族そろって安全な日本にいるよね。十五年もまえの刑務所の話がなぜ今もそれほど問題なの?」
サヤーは首を横に振った。
「日本にきているビルマ人はほとんど民主化に賛同しているんだ。難民の協会だって力があるし、うちの家族はあそこから援助をうけている。とうさんが裏切り者だって知られたら、日本でうちの家族がいる場所が無くなっちゃうよ。仲間から爪弾きにされるし、今だしている難民申請だってとおらなくなるかもしれない。」
サヤーはラヴホテルのソファでちいさくなった。
あたしはなるべく静かな声でいった。
「ラワディの取り分は」
目を落としたままサヤーはいった。
「五十パーセント」
「ホントに」
サヤーは黙ってうなずいた。
店が四割取り、ラワディが五割奪う。
身体を売って家族の生活費を稼ぎ、父親の秘密を必死で守るサヤーの手元には一割のはした金が残るだけだった。
ティラナが暗くなってから働くタイレストランのウエイトレスでは、月に七、八万の収入で精いっぱい。
そこにサヤーが月五、六万の金をもっていく。
家族五人ではギリギリね。
腐りかけのフルーツに合唱するはずだった。
あたしはビデオカメラの横につきだした液晶モニターを見た。
そこには実際のラヴホテルの一室より鮮やかな映像がまばゆく映し出されていた。
つらそうなサヤーの顔さえ南の国の航空会社がつくった観光フィルムのモデルみたい。
「昨日の夜中にご両親がうちの店にきたとき、あのラワディって男の名前をだした。アナタの親父さんはその名前をきいて、黙って帰っていったのよね。どこか様子がおかしかったと思う。あの運転手と親父さんにはなにか関係があるの?」
サヤーはカメラのレンズをじっと見つめた。
「ここのところはつかわないと約束してくれる?」
あたしがうなずくとサヤーは低い声でいった。
「ガロン・ラワディととうさんは、ビルマで同じ刑務所にはいっていた。ガロンもとうさんもヤンゴン大学の民主活動家だったんだ。」
それなら同じサイドで闘っていたはず。
普通ならなんの問題もない。
サヤーは続けた。
「ガロンは拷問にあっても口をわらなかったけど、うちのとうさんは違った。とうさんが刑務所にはいっていたころ、かあさんはぼくを妊娠中だった。刑務所のなかでは何人も同志が死んでいく。とうさんはかあさんのところに帰るために必死だったんだろうと思う。」
隅々まで光のあたったサヤーの顔が歪んだ。
続きはあたしにも想像がつく。
サヤーは絞り出すようにいった。
「とうさんは勇気のない人間なんかじゃない。まだお腹の中にいるぼくとかあさんのために、仲間の名前をいったんだ。ガロンはそれで何人も活動家が軍に捕まり、拷問され死んでいったといっている」
あたしは息を飲んでサヤーの話を聞いていた。
平和な日本では想像もできない話だけど、ビルマの軍事政権は現在も続いている。
日本政府からは経済援助もたっぷりと流れているのだ。
「だけど、もう家族そろって安全な日本にいるよね。十五年もまえの刑務所の話がなぜ今もそれほど問題なの?」
サヤーは首を横に振った。
「日本にきているビルマ人はほとんど民主化に賛同しているんだ。難民の協会だって力があるし、うちの家族はあそこから援助をうけている。とうさんが裏切り者だって知られたら、日本でうちの家族がいる場所が無くなっちゃうよ。仲間から爪弾きにされるし、今だしている難民申請だってとおらなくなるかもしれない。」
サヤーはラヴホテルのソファでちいさくなった。
あたしはなるべく静かな声でいった。
「ラワディの取り分は」
目を落としたままサヤーはいった。
「五十パーセント」
「ホントに」
サヤーは黙ってうなずいた。
店が四割取り、ラワディが五割奪う。
身体を売って家族の生活費を稼ぎ、父親の秘密を必死で守るサヤーの手元には一割のはした金が残るだけだった。
ティラナが暗くなってから働くタイレストランのウエイトレスでは、月に七、八万の収入で精いっぱい。
そこにサヤーが月五、六万の金をもっていく。
家族五人ではギリギリね。
腐りかけのフルーツに合唱するはずだった。