ー特別編ーブラックアウトの夜
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「いくぞ、サヤー」
じっとあたしをにらんでから、くるりと背を向け歩道を去っていった。
ラワディとこちらを交互に見るサヤーのところまで歩き、オレンジを渡してあげた。
「事情がまるでわからないけど、何とかしてあげる。諦めちゃダメよ。サヤー」
「なにをしてる、早くこい」
ラワディが鞭のような勢いで叫ぶと、困惑した表情のサヤーはデリヘルの運転手に足を引きずりながらついていった。
その日の終電時刻がすぎたころ、サヤーの両親がうちの店にやって来た。
おやじさんの肩をおふくろさんが支え店先に立っている。
ティラナがあせった顔で声をかけてきた。
「リカーさん、うちのサヤーが帰って来ないんだ。なにか知らないか。」
お母さんも何事かと二階の窓から顔を出していた。
あたしは歩道にでて首を振った。
「わからない。けど、今日の夕方サヤーが、その……」
デリヘルをなんていったらいいのかわからなかった。この両親は自分達のために長男が身体を売っていることは知っているのかしら。
確かには知らなくても、うすうすは感づいてはいるのかしら、あたしは言葉を濁した。
「……アルバイト先の人間とこの店にきたわ。そいつはサヤーと二度と口をきくなっていってたよ。サヤーは普段こんなに遅いことはないの」
ティラナは黒目がちな目を悲しそうに見開いていた。
サヤーは母親似ね。
「心配しないでと一言電話があっただけ。今まで一度もこんなに遅くなったことないよ。」
あのアパートに帰っていないとすると、デリヘルの事務所にいるのか、あの運転手と一緒にいるか…ね。
体温の感じられないサヤーの父親を無視して、あたしはティラナにいった。
「おふくろさんは、ガロン・ラワディって名前の男は知らない?」
ティラナは頭をななめにかしげるだけだったけど、ウームの目のなかでなにかが動いた。
サヤーのおやじさんは、不自由な片足で全身を汗でずぶ濡れにしてたっていた。
あの部屋からここまで足を引きずりながら三十分以上かけて歩いてきたのだ。
いくら心と身体を壊されていても、息子を心配する気持ちは本物のはずだった。
「ウームさん、ガロン・ラワディを知っているの?」
ウームは気弱そうにうつむくと返事もせずに、歩道にもどっていった。
なにが起きているのかわからずにティラナはやせた背中を見送っている。
あたしに電話番号の書かれたチラシの端をわたすといった。
「サヤーのこと、なにかわかったら、電話してください。遅くてもいいから」
ティラナはビルマ語でなにか叫びながら、片足を引きずって西一番街を遠ざかる夫の後を追いかけていった。
じっとあたしをにらんでから、くるりと背を向け歩道を去っていった。
ラワディとこちらを交互に見るサヤーのところまで歩き、オレンジを渡してあげた。
「事情がまるでわからないけど、何とかしてあげる。諦めちゃダメよ。サヤー」
「なにをしてる、早くこい」
ラワディが鞭のような勢いで叫ぶと、困惑した表情のサヤーはデリヘルの運転手に足を引きずりながらついていった。
その日の終電時刻がすぎたころ、サヤーの両親がうちの店にやって来た。
おやじさんの肩をおふくろさんが支え店先に立っている。
ティラナがあせった顔で声をかけてきた。
「リカーさん、うちのサヤーが帰って来ないんだ。なにか知らないか。」
お母さんも何事かと二階の窓から顔を出していた。
あたしは歩道にでて首を振った。
「わからない。けど、今日の夕方サヤーが、その……」
デリヘルをなんていったらいいのかわからなかった。この両親は自分達のために長男が身体を売っていることは知っているのかしら。
確かには知らなくても、うすうすは感づいてはいるのかしら、あたしは言葉を濁した。
「……アルバイト先の人間とこの店にきたわ。そいつはサヤーと二度と口をきくなっていってたよ。サヤーは普段こんなに遅いことはないの」
ティラナは黒目がちな目を悲しそうに見開いていた。
サヤーは母親似ね。
「心配しないでと一言電話があっただけ。今まで一度もこんなに遅くなったことないよ。」
あのアパートに帰っていないとすると、デリヘルの事務所にいるのか、あの運転手と一緒にいるか…ね。
体温の感じられないサヤーの父親を無視して、あたしはティラナにいった。
「おふくろさんは、ガロン・ラワディって名前の男は知らない?」
ティラナは頭をななめにかしげるだけだったけど、ウームの目のなかでなにかが動いた。
サヤーのおやじさんは、不自由な片足で全身を汗でずぶ濡れにしてたっていた。
あの部屋からここまで足を引きずりながら三十分以上かけて歩いてきたのだ。
いくら心と身体を壊されていても、息子を心配する気持ちは本物のはずだった。
「ウームさん、ガロン・ラワディを知っているの?」
ウームは気弱そうにうつむくと返事もせずに、歩道にもどっていった。
なにが起きているのかわからずにティラナはやせた背中を見送っている。
あたしに電話番号の書かれたチラシの端をわたすといった。
「サヤーのこと、なにかわかったら、電話してください。遅くてもいいから」
ティラナはビルマ語でなにか叫びながら、片足を引きずって西一番街を遠ざかる夫の後を追いかけていった。