ー特別編ーブラックアウトの夜
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広さは六畳、まんなかには古道具屋でも見かけることの少なくなった丸いちゃぶ台がおいてあった。
その周囲を三十代後半の夫婦と女の子がふたりかこんで、ニコニコとあたしを見上げてきた。
部屋にあるテレビやラジオはどれも型遅れで、どこかの粗大ゴミ集積場から拾ってきたもののように見えた。
サヤーがあたしを紹介してくれた。
「この人が駅前のフルーツショップのムナカタ・リッカさん。いつもただで果物をくれるんだ。それで、こっちがうちの家族で」
父親を手のひらで示すとサヤーはうれしそうにいった。
「とうさんのウームとかあさんのティラナ、うえの妹で小学六年生のトーラと五歳のマだよ」
みな紹介されるたびに胸のまえで合掌した。
あたしは立ったままバカみたいに笑って、うなずいてみせた。
貧しいけれど幸福そうな一家に見えた。
おかしいなと思うのは父親のウームくらい。
なぜかサヤーのおやじさんは、座ったままじっとしていられずに終始体勢を変えているのだった。
手と足の先は病人みたいに震えている。
あたしはちょいと美人のおふくろさんにポリ袋をわたして、空いている場所に腰をおろした。
それでほぼ部屋のなかから隙間がなくなった。
皆の中であたし一人が頭ひとつ飛び抜けている。
ティラナが引き戸のわきについた半畳ほどのキッチンに立つといった。
「今ごちそう用意するから、ちょっと待っててね、ムンナーカ・リカーさん」
あたしはミス・リカーの振りをして、家族の会話に加わった。
サヤーのおふくろさんが出してくれたビルマ料理はけっこう美味しかった。
お米はぱさぱさのインディカ米。
これがビルマ風の煮込み料理とよくあっていた。
スィービャン・チュッ(たぶんそんな感じの発音)は唐辛子のきいたまっ赤な豚肉のカレーのような見てくれで、恐る恐る食べてみるとあまり辛くはなかった。
味はパプリカと魚醤がメインで、真っ赤な油の底に沈んだペースト状のタマネギをすくって白いごはんにまぜると抜群だった。
おかずはその煮込みと金属の皿に盛られたエビのサラダだけだった。
サヤーの家族はよくたべ、よくおかわりした。
大鍋に炊いてあったお米がどんどんなくなっていくのだ。
ビルマ人はどうやらお腹一杯お米を食べないと満足しないようだった。
昔の日本人みたい。
その食事のあいだも親父さんはつねに姿勢を変えていた。
小皿にひと盛りのご飯を食べる間さえ、二度三度とひざを立てたり、足を組み直したりする。
やせた顔にもあまり表情がなく、目は壁に空いた穴のようだ。
あたしは食後のバナナフライを終えるまで、ウームからは視線をそらせていた。
洗礼された北の工業国の魅力がアピールするのか、五歳のマはしきりにあたしにだっこしてもらいたがった。
あたしはどうも子供にはモテらしい、けど、もっと大人の男性にもきく力ならよかったのに。
その周囲を三十代後半の夫婦と女の子がふたりかこんで、ニコニコとあたしを見上げてきた。
部屋にあるテレビやラジオはどれも型遅れで、どこかの粗大ゴミ集積場から拾ってきたもののように見えた。
サヤーがあたしを紹介してくれた。
「この人が駅前のフルーツショップのムナカタ・リッカさん。いつもただで果物をくれるんだ。それで、こっちがうちの家族で」
父親を手のひらで示すとサヤーはうれしそうにいった。
「とうさんのウームとかあさんのティラナ、うえの妹で小学六年生のトーラと五歳のマだよ」
みな紹介されるたびに胸のまえで合掌した。
あたしは立ったままバカみたいに笑って、うなずいてみせた。
貧しいけれど幸福そうな一家に見えた。
おかしいなと思うのは父親のウームくらい。
なぜかサヤーのおやじさんは、座ったままじっとしていられずに終始体勢を変えているのだった。
手と足の先は病人みたいに震えている。
あたしはちょいと美人のおふくろさんにポリ袋をわたして、空いている場所に腰をおろした。
それでほぼ部屋のなかから隙間がなくなった。
皆の中であたし一人が頭ひとつ飛び抜けている。
ティラナが引き戸のわきについた半畳ほどのキッチンに立つといった。
「今ごちそう用意するから、ちょっと待っててね、ムンナーカ・リカーさん」
あたしはミス・リカーの振りをして、家族の会話に加わった。
サヤーのおふくろさんが出してくれたビルマ料理はけっこう美味しかった。
お米はぱさぱさのインディカ米。
これがビルマ風の煮込み料理とよくあっていた。
スィービャン・チュッ(たぶんそんな感じの発音)は唐辛子のきいたまっ赤な豚肉のカレーのような見てくれで、恐る恐る食べてみるとあまり辛くはなかった。
味はパプリカと魚醤がメインで、真っ赤な油の底に沈んだペースト状のタマネギをすくって白いごはんにまぜると抜群だった。
おかずはその煮込みと金属の皿に盛られたエビのサラダだけだった。
サヤーの家族はよくたべ、よくおかわりした。
大鍋に炊いてあったお米がどんどんなくなっていくのだ。
ビルマ人はどうやらお腹一杯お米を食べないと満足しないようだった。
昔の日本人みたい。
その食事のあいだも親父さんはつねに姿勢を変えていた。
小皿にひと盛りのご飯を食べる間さえ、二度三度とひざを立てたり、足を組み直したりする。
やせた顔にもあまり表情がなく、目は壁に空いた穴のようだ。
あたしは食後のバナナフライを終えるまで、ウームからは視線をそらせていた。
洗礼された北の工業国の魅力がアピールするのか、五歳のマはしきりにあたしにだっこしてもらいたがった。
あたしはどうも子供にはモテらしい、けど、もっと大人の男性にもきく力ならよかったのに。