悪=正≒義=魔
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重たい沈黙が私と柏を包んでいた。
パチンコ屋から響いてくる音がやかまかしく感じていると金剛さんがいった。
「柏、あのこども…」
「ちっ、また居やがったか」
「子供?」
店内に視線を向けると幼稚園児~小学生くらいの少女が床に張り付いて玉を拾っている。
「あの子は?」
「少し前から目についてな…どうやら、母親と一緒にいるみてぇなんだが玉を拾っては母親に渡してんだ。」
世知辛い世の中になったものだと思ってると、後ろから男の声がした。
振り替えると初老に差し掛かったくらいの男性が、柏に会釈をしていた。
服装は葬儀でもあったのか喪服だ。
「水内、あのガキがまた玉拾いしてるぞ。どういうことだ…また、補導されてぇのか。母親は中にいるんだろ。」
「すいません。柏さん、それが……今朝家内は息を引き取りまして…あの娘はずっとここでああしてるんですよ。」
「あぁ?」
「家内は、パチンコが大の趣味でした。娘はいつも家内に連れられて玉を拾えば喜ぶと思ってるんです。」
なるほど…きっとあの少女はまだ「死」というものを理解できないのだろう。
もう母親は帰ってこないということを…
「何度言い聞かせてもここを離れなくて…」
「ちっ…お前ら少し待ってろ」
柏はそういって店のなかに入っていき、少女の前に立った。
「よぉ、また玉拾ってるのか。」
「……」
「母ちゃんにお別れくらいいってやれよ。そんなに玉集めたってもう渡す相手はいねぇだろ。」
少女はキッと柏を睨み付け、そうして両手をつきだした。
パチンコ玉が小さな手のひら一杯に盛られている。
「こうかんして。」
「ぁ?」
「これ、たくさん集めたら欲しいものとこうかんできるんでしょ。だからおかあさんかえしてよ」
柏は…いった。
「悪ぃが、たったそれだけじゃチョコも買えないぞ。…っーかよぉ、本当はお前がいちばん知ってるだろ。どんな物とだって替えることなんざできやしねぇ。いつまでも…たったひとりのお前だけの母ちゃんだと」
柏はそっと少女の頭に手を置いてあとはなにもいわなかった。
少女のちいさな手からは鉄の玉がこぼれ落ちて、つぶらな瞳からは水の玉がこぼれ落ちていく。
「…そんなのわかってたもん」
「なら、さっさとこんな場所からでて最後のあいさつしてこい」
柏はそれだけ言い終わるとパチンコ屋からでてきて、帰るといった。
私は後をついていこうとしたが金剛さんに止められた。
「話したいことがあるならまた日を改めた方がいい。柏は帰るのを邪魔されるとかなり機嫌が悪くなる」
「そう…ですか」
「…わからない男だろ?」
「はい…。」
結局、私は自己紹介出来ないまま本日の柏巡査長との仕事は終了した。
慈悲が無い悪魔のような所業。
しかし、それが今の世の中に必要な「正義」という新しい形なのかもしれない。
END
パチンコ屋から響いてくる音がやかまかしく感じていると金剛さんがいった。
「柏、あのこども…」
「ちっ、また居やがったか」
「子供?」
店内に視線を向けると幼稚園児~小学生くらいの少女が床に張り付いて玉を拾っている。
「あの子は?」
「少し前から目についてな…どうやら、母親と一緒にいるみてぇなんだが玉を拾っては母親に渡してんだ。」
世知辛い世の中になったものだと思ってると、後ろから男の声がした。
振り替えると初老に差し掛かったくらいの男性が、柏に会釈をしていた。
服装は葬儀でもあったのか喪服だ。
「水内、あのガキがまた玉拾いしてるぞ。どういうことだ…また、補導されてぇのか。母親は中にいるんだろ。」
「すいません。柏さん、それが……今朝家内は息を引き取りまして…あの娘はずっとここでああしてるんですよ。」
「あぁ?」
「家内は、パチンコが大の趣味でした。娘はいつも家内に連れられて玉を拾えば喜ぶと思ってるんです。」
なるほど…きっとあの少女はまだ「死」というものを理解できないのだろう。
もう母親は帰ってこないということを…
「何度言い聞かせてもここを離れなくて…」
「ちっ…お前ら少し待ってろ」
柏はそういって店のなかに入っていき、少女の前に立った。
「よぉ、また玉拾ってるのか。」
「……」
「母ちゃんにお別れくらいいってやれよ。そんなに玉集めたってもう渡す相手はいねぇだろ。」
少女はキッと柏を睨み付け、そうして両手をつきだした。
パチンコ玉が小さな手のひら一杯に盛られている。
「こうかんして。」
「ぁ?」
「これ、たくさん集めたら欲しいものとこうかんできるんでしょ。だからおかあさんかえしてよ」
柏は…いった。
「悪ぃが、たったそれだけじゃチョコも買えないぞ。…っーかよぉ、本当はお前がいちばん知ってるだろ。どんな物とだって替えることなんざできやしねぇ。いつまでも…たったひとりのお前だけの母ちゃんだと」
柏はそっと少女の頭に手を置いてあとはなにもいわなかった。
少女のちいさな手からは鉄の玉がこぼれ落ちて、つぶらな瞳からは水の玉がこぼれ落ちていく。
「…そんなのわかってたもん」
「なら、さっさとこんな場所からでて最後のあいさつしてこい」
柏はそれだけ言い終わるとパチンコ屋からでてきて、帰るといった。
私は後をついていこうとしたが金剛さんに止められた。
「話したいことがあるならまた日を改めた方がいい。柏は帰るのを邪魔されるとかなり機嫌が悪くなる」
「そう…ですか」
「…わからない男だろ?」
「はい…。」
結局、私は自己紹介出来ないまま本日の柏巡査長との仕事は終了した。
慈悲が無い悪魔のような所業。
しかし、それが今の世の中に必要な「正義」という新しい形なのかもしれない。
END