俺が席につくと、すぐにつき出しが運ばれてくる。
割烹着姿の男が正座で一礼して説明をはじめた。

「本日のつきだしは、崩し卵豆腐、おぼろ豆腐、枝豆と空豆のまめ豆腐となっております。崩し卵豆腐はかつおベースの出汁を、おぼろ豆腐にはみそだれ、まめ豆腐には出汁醤油でお楽しみください」

一通りの説明を聞いて、俺は卵豆腐に箸をつけた。
鰹の風味がよく効いていて口当たりが柔らかい。
出汁自体ににはあまり塩気が無いが卵豆腐に味がついてるのでそれがちょうどいい塩梅だ。

「悠、どっちがいい」

「やはり此方ですか？」

タカシは瓶ビールを、氷室さんは日本酒の一升瓶を掲げた。
折角なので俺は氷室さんの方へグラスを向けた。
和食にはやっぱり日本酒がいい。

「かっかっか、振られちまったな。俺にビールよこしな」

拳二がグラスを突きつけたがタカシは瓶を置いていった。

「本郷、注いでやれ」

「ふっ…」

「なんでだよ！？」

氷室さんが声を出して笑った。
隣にいる真桜も珍しく笑っている。

俺は日本酒で唇をかるく湿らせていった。

「っかさ、なんでこっちはこのメンツなんだ？」

タカシがいった。

「別段意味はないが……まぁ、最初は静かに飲みたかったからだな。それにどうせ後で合流するから構わないだろ。」

「合流？」

氷室さんがいった。

「花火が始まる頃にはこっちの舟とあっちの舟を橋で繋ぐそうですよ。そうそうこんな感じで停船して……おや？」

舟の外からガタガタと音がしたと思ったら、バタバタとこっちに乗り込んでくる足音が大量に聞こえた。

タカシは首を左右にちいさくふって呟いた。

「やれやれ…我慢のできない奴等だ」

「たっかしさーん、お酌しますよ！」

先陣をきって入ってきたのは紅だった。
真っ赤な浴衣がかなり派手だ。
足早にタカシの隣にいった。

「紅。今日は無礼講なんだ。お前も自由にしていいんだぞ」

「自由になら崇さんと呑ませてください」

「もの好きな奴だ。」

「いや～崇さん好きですよ」

もう出来上がり気味なのか紅のテンションと発言がなかなか飛んでいる。
微妙に本郷の視線が紅を捉えているが面白いので俺は黙って見ていた。

「氷室さん。よかったら注がせてください」

「おや、千夜くん。ありがとうございます。」

その隣は隣て似たような事をしている。
そんな二人を見て俺は冗談のつもりでいってみた。

「なぁなぁ、無礼講だし、タカシと氷室さんの事を呼び捨てにしてみろよ」

「「え…」」

千夜と紅はピタリと一時停止したように固まった。
視線だけが王様とボスを行き来する。

タカシと氷室さんはちいさく笑ってクールにいった。

「俺は構わないぞ。」


「私もです。ささ、どうぞ呼んでみてください。」