思い出せば…俺の一目惚れだったのかもしれない。
アンタにはわかるか？

大きくて吸い込まれそうな程深い黒の瞳。

一瞬目が合うだけで忘れられなくなる…。
冗談抜きの一撃必殺ってやつだよな。

俺は今そんな素敵な彼女をもってたりする。
その道のりは…まぁいいだろ。

とにかく必死に口説いたんだ。自分に似合わないくらい必死にな。

ただ…その彼女は付き合うときにこういった。

「そのかわり…ひとつだけ条件…私の目を見つめないでね。」

「……あぁ。わかったよ。優日。」



月見里優日はどういう訳かはわからないが見つめられるのが極端に苦手なんだ。

理由は…一切不明。

と言うわけで必死に隠す。
帽子で隠す。
前髪で隠す。
手で隠す。

だから……逆に俄然見たくなるのが男の心理なんですよ。

「いいから取れ！目をみせれ～。」

「や、ダメ約束がちがうよ！」

「約束は破るためにあるのさ！さぁ目を見せなさい！」

「う～～も～やぁ！」

なんてやり取りをしてると最後に俺の頬には手のひら型の真っ赤な腫れができちゃいます。

やはり力任せではダメだと(と言うかビンダから顔面パンチにレベルがあがっていくので…)

直球で想いを伝えてみました。

「優日！お前の瞳に惚れたんだ！お前と見つめ合いたい！」

「！～～～/////」

「(こらこら、目を隠すな。)」

真っ赤になってこのあと三日間口を聞いてくれませんでした。


ちなみに俺は前髪をさっぱり切った。
そうしたら少しは優日も歩み寄ってくれるかなと思ったからだ。

ところがそんな甘くはないんだよな。

「えと…悠の目が見えて…私は嬉しいな。」

まぁ、こんなことを言われたら前の貞子髪に戻せる訳もなく。
逆に丸め込まれた…

しかも、優日は俺より前髪をギリッギリまで切らない。

おかげで目を隠す髪がピークになると後頭部が追ってくるみたいで面白かったりするんだが…

まぁ、そんな可愛い奴が…俺の彼女なんだ。








優日とデートの約束をしたある日…


春眠暁をなんたらな暖気の中、俺は池袋西口公園の植え込みに腰かけて待っていた。

「遅いな…」

俺は携帯を開いてディスプレイを見た。
既に約束の時間から一時間。

「優日のやつ…なにやってんだ。アイツが遅刻なんて珍しい。」

俺はメールを送ろうと打ち込んでいると後ろから肩をつつかれた。

振り返って見る。

「あん？」

「……」

ニット帽につばつきの帽子を被ったうえにジャケットのフードを被った人がいる。

「……」

「……」

少し間をおいて俺は言った。


「どなた様ですか？」

「……う～～」