池袋駅近く…

夜の帳が下りる頃…

がやがや…
わいわい…
ざわざわ…

暖簾をかける店…

ｰ小鳥遊食堂(深夜2時頃)ｰ

「あさりの酒蒸しお願い～」
「若大将こっちには唐揚げ頼むよ」
「熱燗追加で～」

騒がしい店内の各方面から注文が飛び交う。


「はいよ。酒蒸しに唐揚げだな。」

黒いエプロンを着けて、頭に黒いタオルを巻いた小鳥遊悠は決して広いとは言えない厨房でバタバタと調理を始める。

「はい、熱燗お待ちどうさまです。」

同じ様に黒いエプロン、頭には黒のタオルを巻いた優日が配膳をする。

「お、月見里ちゃんありがとよ。」

「はい♪けど…小鳥遊ですよ。」

優日はニッコリ微笑んで答える。

「おっと…そうだったな～…しかし、若大将にゃ勿体ないな～」

無精髭が目立つおっさんがにやにやしながら悠を見る。

「おっさん、毎回それ言ってるだろ。」

ジュゥゥ…
唐揚げの揚がる心地よい音と香ばしい匂い広がる。

「よしっと…。」

こんがり揚がった唐揚げに千切りキャベツとカットレモンを添えて完成。

「唐揚げ揚がったよ。」

「あ、はいはい。」

優日は皿を受け取り配膳に向かう。

「しかし、若大将。」

「何だ？」

「何で結婚式しなかったんで？」

「この店を買って金が無かった…ってのが最もらしい理由かな。」

アサリの酒蒸しを作りながら悠は答えた。

「ふぅん…やま…優日ちゃんはそれで良かったのかい？」

「はい、私は別に式とかは全然興味なかったですから」

「え？そうなのかい？」

「はい。」

顔は半分しか見えなくても優日は笑顔でいるのが解る返事。

「かぁっ～～ホント良い奥さんだなぁ。」

「……」