四季廻り
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今年も庭の桜は遅咲きだった。うちの庭には三本ほど桜の木がある。どれもこれも余裕でおれの年齢を超えている。ジジイが気まぐれで植えたとか、母さんの結婚祝いに大木を植えたとか、元からここにあったなど、諸説色々だ。
自宅の桜に諸説なんてのはいいすぎも知れないな。それに今はどこに行っても綺麗な桜というのは見られるのだ。あの、池袋の西口公園ですら春には桜の花を見ることができる。
おれはよくそれを見に出歩いていた。
おれの行動範囲は狭い。いつだって植えた魚のようにウロウロと池袋中を歩くくらいがやっと、だが、それだけでも充実しているときはあった。少し前までは……頻繁にトラブルに巻き込まれていたのがここ最近はまったくなし。平和といってしまえばその通りなんだが、前代未聞の退屈に苛まれている。
そうなると、さらにおれの動きは怠惰的になった。今だって縁側に横なって桜を眺めてるだけだ。こうやってダラダラとおれは死んでいくのかもしれない。そんなふうに考えてしまうと怖くなった。現実逃避と、目を閉じて夢の中に行こうっと…思ったその時、誰かがおれの背中に近づいてきている気配がした。その気配は顔を覗きこむように移動する。片目を開けて見た。気配の主に声をかける。
「なにかごようかな?」
四つん這いで居る大きな猫……ではなく、猫の耳のような、くせ毛体質の少女。春野翡翠だ。いつ来ていたのかは解らないが遊びに来ていたらしく、おれを見降ろしていた。
「猫の真似かな?」
翡翠は少し考えたように目をパチパチさせて、ちいさくいった。
「…みゃ…」
「あー……やっぱり、猫だったか。ほら、ごろごろ~」
おれは横向きから、仰向けに転がり翡翠の喉を撫でた。くすぐったかったのかプルプルと小さく震えて、首を引っ込めた。
だが、猫ごっこは続けたいのか、頭でぐりぐりと押してくる。ちょうど暇だったし、この遊びに付き合うのも悪くない。本物の猫を撫でるように、まずは顎、そして頬へと手を動かす。そしてゆっくりと頭へと持っていった。翡翠の髪は絹糸のように細く、そっと動かすだけで指と指の間をサラサラとこぼれていった。
「…にゃぉ//…」
猫真似なのか座りのいい位置に頭を動かした。これ、本当に翡翠だよな?
「気持ちいいのか?」
「…コクコク…」
どうやら、答えはイエスだったらしい。勢いよく頭を縦に振る。
「…ゆうの、て、すき//あったかくて、やさしい…」
色白のほほが桜の花色になった少女。なんだか、こっちまで照れてしまった。それを悟られないようにおれは撫でるのをやめて、両手で腋の辺りを掴んで翡翠を持ち上げた。変則高い高いだ。
「甘えん坊の猫さんだな。」
「…むぅ…」
翡翠猫はぷくっと頬をふくらます。ちいさな桃饅頭みたいで、おれは笑ってしまった。
気が抜けて腕は下がり、翡翠を胸板に降ろすと、のそのそと動いて頭元までやってきた。
「んー、どうかしたか?」
ジッとおれの顔を見続けている翡翠。そっと、手を伸ばして指で何かを摘まんだ。目のまえでそれを見せてくる。ちいさな指にあるのは桜の花びら。ゴロゴロしている内に髪に巻きこんでしまったていたのだろう。おれはいった。
「とってくれて、ありがと」
「…どういたしまして…」
「おや、猫ごっこは終わりかな?」
翡翠はハッとなってフルフルと頭を横に振る。その反応の良さがいちいち面白かった。なにげなく手を伸ばして抱きこんでやる。
「可愛い猫さんだな」
「…んっ//みゃぅ///…」
軟らかく降り注ぐ太陽の光とほかほかとした子供特有の体温の高さがほどよく眠気を誘ってくれる。おれはゆっくりと目を閉じた。今ならきっといい夢を見られるだろう。
おれは抱きこんだ翡翠の頭を撫でながらいう。
「翡翠、お昼寝タイムに入ろうぜ」
「…ゆう…」
「なんだ?」
「…ゆうの、て、やさしくてすき…」
「うん……ありがと……。」
まどろみが包み込んでくる。
「…でも……ゆうはもっとすき///…」
軟らかいものが唇に触れた気がした。
自宅の桜に諸説なんてのはいいすぎも知れないな。それに今はどこに行っても綺麗な桜というのは見られるのだ。あの、池袋の西口公園ですら春には桜の花を見ることができる。
おれはよくそれを見に出歩いていた。
おれの行動範囲は狭い。いつだって植えた魚のようにウロウロと池袋中を歩くくらいがやっと、だが、それだけでも充実しているときはあった。少し前までは……頻繁にトラブルに巻き込まれていたのがここ最近はまったくなし。平和といってしまえばその通りなんだが、前代未聞の退屈に苛まれている。
そうなると、さらにおれの動きは怠惰的になった。今だって縁側に横なって桜を眺めてるだけだ。こうやってダラダラとおれは死んでいくのかもしれない。そんなふうに考えてしまうと怖くなった。現実逃避と、目を閉じて夢の中に行こうっと…思ったその時、誰かがおれの背中に近づいてきている気配がした。その気配は顔を覗きこむように移動する。片目を開けて見た。気配の主に声をかける。
「なにかごようかな?」
四つん這いで居る大きな猫……ではなく、猫の耳のような、くせ毛体質の少女。春野翡翠だ。いつ来ていたのかは解らないが遊びに来ていたらしく、おれを見降ろしていた。
「猫の真似かな?」
翡翠は少し考えたように目をパチパチさせて、ちいさくいった。
「…みゃ…」
「あー……やっぱり、猫だったか。ほら、ごろごろ~」
おれは横向きから、仰向けに転がり翡翠の喉を撫でた。くすぐったかったのかプルプルと小さく震えて、首を引っ込めた。
だが、猫ごっこは続けたいのか、頭でぐりぐりと押してくる。ちょうど暇だったし、この遊びに付き合うのも悪くない。本物の猫を撫でるように、まずは顎、そして頬へと手を動かす。そしてゆっくりと頭へと持っていった。翡翠の髪は絹糸のように細く、そっと動かすだけで指と指の間をサラサラとこぼれていった。
「…にゃぉ//…」
猫真似なのか座りのいい位置に頭を動かした。これ、本当に翡翠だよな?
「気持ちいいのか?」
「…コクコク…」
どうやら、答えはイエスだったらしい。勢いよく頭を縦に振る。
「…ゆうの、て、すき//あったかくて、やさしい…」
色白のほほが桜の花色になった少女。なんだか、こっちまで照れてしまった。それを悟られないようにおれは撫でるのをやめて、両手で腋の辺りを掴んで翡翠を持ち上げた。変則高い高いだ。
「甘えん坊の猫さんだな。」
「…むぅ…」
翡翠猫はぷくっと頬をふくらます。ちいさな桃饅頭みたいで、おれは笑ってしまった。
気が抜けて腕は下がり、翡翠を胸板に降ろすと、のそのそと動いて頭元までやってきた。
「んー、どうかしたか?」
ジッとおれの顔を見続けている翡翠。そっと、手を伸ばして指で何かを摘まんだ。目のまえでそれを見せてくる。ちいさな指にあるのは桜の花びら。ゴロゴロしている内に髪に巻きこんでしまったていたのだろう。おれはいった。
「とってくれて、ありがと」
「…どういたしまして…」
「おや、猫ごっこは終わりかな?」
翡翠はハッとなってフルフルと頭を横に振る。その反応の良さがいちいち面白かった。なにげなく手を伸ばして抱きこんでやる。
「可愛い猫さんだな」
「…んっ//みゃぅ///…」
軟らかく降り注ぐ太陽の光とほかほかとした子供特有の体温の高さがほどよく眠気を誘ってくれる。おれはゆっくりと目を閉じた。今ならきっといい夢を見られるだろう。
おれは抱きこんだ翡翠の頭を撫でながらいう。
「翡翠、お昼寝タイムに入ろうぜ」
「…ゆう…」
「なんだ?」
「…ゆうの、て、やさしくてすき…」
「うん……ありがと……。」
まどろみが包み込んでくる。
「…でも……ゆうはもっとすき///…」
軟らかいものが唇に触れた気がした。