第拾夜『福太郎の不思議な日常』

ー百鬼襖の部屋ー

ゆの「こんにちはー、今回の荷物持ってきました。」

福太郎「んっ、はーい、ご苦労さんです。そこに置いといてください。」

クロ「鍋の火、弱めるぞ」

福太郎「あいあい」

ゆの「あれ、お料理してたんですか?」

福太郎「ああ、ちょっと豪華な夕食にしようと思って……今から来るひとのためにちょっとだけやけど、ね」

りぃ……ん

お仙『フクタロー襖があいたゾ』

福太郎「あいあい、ゆのさんもどうぞ」

ゆの「あ、はい!」

狐者異「……」

襖の中から出てきたのは『絵本百物語』の挿絵に載っている涎を垂らしながら血眼になって食べ物を捜す狐者異……のような姿ではなく、長い黒髪に着物姿。唯一変わっているところは頭からすっぽりとお椀のようなものをかぶっていて口元しか見えていないところだろう。

福太郎「こんにちは」

澄「はじめまして、狐者異(こわい)の澄(すみ)です。これからおせわになります。」

福太郎「はじめまして、俺は歪屋の御堂福太郎です。こちらはサポートの……」

澄「……」
そわそわ

クロ「ん?」

澄「あ、あの、何かいい匂いが……」

福太郎「ん、せや。襖係から食べることが好きやって聞いたんで食べながらお話しようとおもって……秋尽くしのメニューです」

澄「ほあぁぁ!」

お仙『めちゃめちゃ喜んでル』

クロ「ぽいな…」

福太郎「んっ、良かったらゆのさんも一緒にどうです?」

ゆの「いいんですか!」

お仙『さぁ、座って座っテ』

澄「えっあっあの私…」

クロ「まぁ、くえよ。ほら」

澄「わっ」

福太郎「いただきます」

ゆの「いただきます」

澄「い、いただきます……ぱくっ!お、おいしい!とてもおいしい!!」

お仙『おー』

クロ「いい食いっぷりだな」

改めて、狐者異という妖怪は生前に他人の食べ物まで食べてしまうような者が、死後にその執着心を引きずっているためにこの妖怪になるという。

資料によると澄さんのいた「世界」は食べ物がとても少なくてならば現代で働いて食べていこうということらしく……。

俺は「奪って食べる」のではなく「働いて食べる」ことを選んだ彼女を応援したい。

福太郎「あんまり急ぐと喉に詰まるで」

澄「んぐっ!!」

福太郎「あっ、ほら。水飲んで水。」

澄「んぐんぐ……ぷはーー。いやあとても美味しくて。こんなに食べたの何年ぶりかなぁ。」
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