第壱夜『福太郎の不思議な日常』

ー夢見長屋近辺:畑ー

福太郎「現物を見に来たけど……そこそこ広いな」

悠「そこそこどころかおれン家の家庭菜園よりは十分広いぞ、コレ」

恋「悠の場合は無理矢理に庭をいじって敷地ギリギリまで使っておろうに」

悠「個人的には四季を楽しめる遊歩道風の庭園と畑を持ちたい」

福太郎「それよーっぽど広い敷地いるよな。」

悠「そこそこ大きめの公園程度は欲しいなぁ」

恋「どれだけの規模の庭園を作るつもりじゃ……」

悠「ソレはさておき……なに植えるか決まったのか?」

福太郎「んー…………どないしょうかな。こんだけ広いし全面は使わんにしても何がええと思う?」

悠「あー……そうだなぁ」

恋「苺。それ以外は認めぬ」

……せぇ

悠「めんどくさっ……露地苺なんてめんどくさすぎるぞ。それになんでお前が参加してる。服の袖を引っ張んな、目をキラキラさせんな」

……せぇ

恋「福太郎、苺がよいのじゃ!」

……せぇ

福太郎「苺なぁ……。時期的にはどないなん?」

……せぇ

悠「時期的には問題ないが……結構めんどい……っか、なんかさっきから聴こえないか?」

福太郎「言われてみれば……あれちゃう?こっちに近づいてきよる」

泥人形『田を返せ~……主ど~ん、田を返してくだせぇましぃい』

悠「なんか無性にぶん殴りたい」

福太郎「泥やから痛みはないだろうけど……。」

恋「待て。こやつは泥田坊じゃ。」

~泥田坊~
夜な夜な田んぼに現れては「田を返せ~」と叫ぶ妖怪。息子に田んぼを残して死んだ親が、息子が田んぼを大切にしなかったために、怨念となって田んぼにとりついた妖怪。

福太郎「ふむ、この畑は昔は田んぼやって、俺たちが畑の事を話してるンを聞いて、それやったら田んぼに戻してほしいと……?」

泥田坊『あ~い、そうですだぁ。主どん』

福太郎「あるじって……俺のことやろか?」

悠「まぁ、一応最高責任者だしな。けど、田んぼに戻すのは無理だぞ。畑としては立派だけど用水路なんか掘れないし。福ちゃんだって米を作る気はないだろ」

福太郎「せやねぇ。上手ぁ出来たとしても刈り取りやら脱穀やら精米やらはちょっとなぁ」

恋「泥田坊。ここは恋の苺畑にする予定よ。諦めて消え失せい」

悠「気をつけろ福ちゃん、真の敵はこの小娘だぞ」

泥田坊『ど~すても無理だとぉ仰いますならば。代わりに麦植えてくだせぇませんべか?アメリカっぽくて憧れてたんだす。世話ぁもオラがさせていただきますし』

福太郎「麦か。悪うないが……いやいや麦育てても使い道ないですゃん」

泥田坊『んなことないですだ。麦飯や麦茶、粉ァひけば小麦粉になりますべ?畑の半分だけでもどうだすだ?』

恋「今になって麦飯など喰いとうないわ!全面苺じゃ苺!!」

福太郎「んー……」

泥田坊『恋様もええ歳こいて苺苺て、少女のフリすても無理ありますべ』

恋「悠、今すぐコイツを八つ裂きにしてしまえ!」

悠「おれはここにも一面の向日葵を咲き誇らせたいんだが……。ダメかな?」

恋「ちょ、ちょっと待てなんでここにきて花なんじゃ」

悠「家庭菜園は間にあってるし今まで以上に高密度の高水準の向日葵畑を作りたいと思って」

福太郎「んー……野菜は悠からもらえるし夏に一面向日葵の絵描くンもええな。」

泥田坊『失敗すた場合を考えて、ここは半分は無難に麦で』

恋「麦はイヤじゃ!恋はもう麦はいやじゃー!!」

福太郎「恋ちゃんはなんか麦にトラウマでもあるん……?」

悠「さぁ……」

泥田坊『五穀は国の基本ですて……』

恋「苺に決まっておる!!」

福太郎「わかった、わかった。ほんならこうしょう。こっちの畑一面丸々は俺と悠で向日葵畑、そっちの一面を二分割して恋ちゃんの苺と泥田坊の麦な」

悠「恋までいいのか?」

福太郎「まぁ、恋ちゃんにはお世話になっとるし、泥田坊は管理するいうよるし、かまへんやろ」

泥田坊『ありがとうごぜぇますだぁ~!』
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