第壱夜『福太郎の不思議な日常』

ー福太郎の部屋ー

悠に蚊帳をもらったその夜、せっかくなのでセッティングして寝ることにした。これで安心して熟睡できるはずだったのだが……

ぷーん……ぶーん……ぷぷぷぷ……

夜中。やはり蚊がうるさい。なぜか、蚊帳バリアの効果はまるでなかった。

福太郎「ううん……なんや、結局蚊に侵入されても……」

朝になって見てみると、蚊帳がさっくりと切り裂かれていた。どういうことだろう。

ミツバ『……ぼ、僕じゃないですょ?』

福太郎「ん、わかっとるよ。こんなスッパリは爪いうか刃物で切られた感じやし……刃物?」

メリー「ちょ、私でもないよ!!それにこんな剣イミテーションでしょ?」

福太郎「いや、でもそれ悠が造ったんやで?」

メリー「……」

福太郎「……ちょい待っといて」

気になったので冷蔵庫からリンゴを持ってきてメリーちゃんの前に置いた。意図を理解して彼女は背負った勇者の剣(笑)を抜いた。

メリー「(笑)って付けないで!」

福太郎「気にしとったんや……まぁ、どうぞ入刀を」

メリー「たぁっ!」

ズバッ!
バターでも切るようにリンゴは簡単に切れた。というか、ウチの包丁より切れ味が良い。

福太郎「メリーちゃん、それあんま使わんときなサイズが小さい分凶悪やから」

メリー「やっ!はっ!てぃ!」

リンゴ相手にメリー無双してるのでそのままにしておいた。とりあえず、メリーちゃんでも、ミツバでもないとしたら……?





恋「「網切り」じゃな」

福太郎「あみきり……って、妖怪?」

~妖怪~
【網切り】
鳥山石燕の「画図百鬼夜行」に描かれた両手がハサミとなっている妖怪。漁師の網を切ったり、寝てる間に蚊帳を切り裂いてしまうと言われてる。

悠「ふむ……つまり、夜中に蚊帳を切ったってことか……なら、そいつを捕まえて同じように切り刻めばいいと」

恋「切られたところは恋が縫ってやるから無茶はするな」

福太郎「なんやすまんね」

恋「よいよい、このくらいせんと悠が本当に八つ裂きにしかねんからの」

悠「チェーンソーが倉庫にあったはずだな……」

福太郎「ジェーソン?」

悠「福ちゃん、ジェーソンは斧とか鉈であって電鋸は使ってないんだぞ」

福太郎「あ、そなんや。エルム街の悪夢は見たんやけどな。今度借りてみるわ」

だが、それから毎夜毎夜のように切られ、恋ちゃんが縫ってくれるをくりかえしてくれた。日ごとに小さくなる蚊帳だった。さらにそれから、数日後の深夜……。

福太郎「すぅすぅ……」

『……』

大きな鋏状の物が網を切り裂こうとした寸前……ガキンッと固いものを挟んだ。

福太郎「残念やったね。それ、蚊帳やなくて鉄網や」

網切り『!?』

もはや修繕不能な蚊帳は捨ててしまって、今夜は囮代わりに鉄網をぶら下げておいたのだが……見事に引っかかった。電気をつけてみると下半身が蛇みたいで両手がハサミ、顔は鳥と獣をミックスしたような生物が居た。どっから入ってきたんだコイツ。

福太郎「逃げたり暴れたりしたら怖いお兄さんがチェーンソーもって追いかけてくるさかい、やめときや」

恋「そうじゃぞ、網切り。本気でやりかねんからな……」

悠「ふーふーっ、コイツかぁ、ふーふー。」

外で待機していた恋ちゃんと悠が入ってきた。どうでも良いがジェイソンじゃないといったくせにホッケーマスクを被ってる。あとは恋ちゃんが網きりに説教。ちなみにこんな事をした理由は……

網切り『切るときのぷちぷちって感触が好きでつい』

との事だった……。ただ一番気になったことは……

福太郎「どっから入ってきてん自分」

網切り『窓から網戸をあけて』

福太郎「普通に侵入……ってか、なんで網戸は切ってないねん」

網切り『蚊帳が珍しくて』

悠「バラすか」

恋「スプラッタはやめい」

福太郎「弁償……いうてもお金は持ってなさそうやしマンションの周りの草刈りてもらおか。そしたら薮蚊も少しは減りそうやし」
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