第零夜『変わり始めた僕の日常』

さて……どうしようも無いまま一夜明けてしまいました。あんなことがあったにも関わらず熟睡出来てしまった自分に100点を上げたいです。しかし、今夜もヤクモユカリがやってくるらしいがどうしたものか……彼女の目的がわからなかった。考えたくはないが、もし、俺を殺しに来ていたとしたのならきっと昨晩に簡単にくびり殺されてただろう。それでは……何をしに来たのだろう。彼女がいっていた事を思い出す。

『このままだと幻想に帰すわよ』

どういう意味だろうか……。

『福さん、福太郎さん!』

「え、あ、どないしてん?」

『これ、光ってますよぉ』

ミツバが前足で叩いているソレを拾いあげた。おれの携帯電話だ。今ではかなり型遅れの二つ折り。誰かから電話でも来ていたのかとフラップを開いて確認した。不在着信が五件。着信主の名前は全部同じ人だった。ただ、その名前をみてピンっと来る。もしかしたら、今回の一件の力になってくれるかもしれない。もしくは馬鹿にされるかも知れないが……。最悪殴られたりしないだろうか……。携帯を持ったまま硬直すること五分。俺は不在着信の主にコールした。

「……」

プルルと鳴り続けが一向に出る気配がない。暫く待ってみることにした。そして一時間ほどコール状態で置いておいたが全く繋がらなかった。流石に無駄な時間を過ごしてると気がついて俺は電話を切った。今思い出したが彼は電話に出ないことで有名だった。そんな彼から着信が残ってたことがそもそも怪奇現象レベルだ。
こうなったらどうしょうかと思い悩んでいるとミツバがいった。

『福太郎さん、福太郎さん』

「ん、どないした?」

『お電話繋がらないんですよね。』

「あぁ、そうなんよ」

『でしたら、めーるを送って置いたらどうですか?』

おぉ、ナイスアイディア。見てくれる可能性が低くても文章を送っておけば万が一ということもある。内容は……どういう物にしようか。説明は非常に困難、少し考えてある一文に絞り込んで送った。

>相談したいことがある
>話せるなら
>池袋西口公園に
>来てください。
>夕方までブラブラしてます。
>もしくは電話を
>お願いします。

「うん……これが一番ええやろ。送信っと……よし、ミツバ。」

『なんですか?』

「ちょっと夕方まで出かけてくるわ」

『お散歩ですかぁ。じゃあ、ミツバもお散歩に行ってきますよぅ』

ミツバは尻尾を左右に振って、GOサインを待っている。昨晩の事を知らないこともあるが、なんというか……無邪気だ。

「ええよ、いってらっしゃい。夕方には帰ってくるんやで」

『はーい、分かりましたぁ。いってきまーす。福太郎さんも車と水たまりにきをつけてくださいねぇ』

ミツバはトンットンッと、跳ねながらベランダから飛び出していった。

「……俺は別に水たまりコワないで?」

ミツバは猫なので本能からかいつも水溜まりを避けて移動する。もちろんお風呂も嫌いだ。半年に一回は洗ってやろうとするのだがそれはもうビビりまくりなのだ。もちろん暴れられるよりかは全然いいのだが……震える声で名前を呼ばれ続けられるのは結構キツイ。けど、石鹸の匂いは好きらしく俺が風呂からあがるとすぐにすり寄ってくるのだ、毛が着いて困るのだが……それは言わないでいる。

「うーん……。」

もし、俺が死んでしまったらミツバの事をどうしようか……というか、俺が死ぬ時ミツバを道連れにするのだけは嫌だな。彼がでていった窓の外からは良い風が吹いてくる。今日は晴天、ネガティブなことばかり考えるのはやめにしよう。まだ、夜まで時間はたっぷりあるのだから余生をたのしむことだってできるはずだ。……あぁ、考えないようにといった舌の根も乾かないうちに余生とかいってしまう。根っからのネガティブな自分が悲しくも何も普段と変わらぬ調子なのがちょうど良かった。頭のなかで灰色の思考がグルグルさせながら身支度を始めた。黒いワークキャップとキャンパス道具一式を引っ提げ靴を履いて晴天な空の下へと出ていくのだった。
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