第壱夜『福太郎の不思議な日常』

ー池袋界隈ー

福太郎「はぁ……はぁ……!!」

全力疾走。いったい、いつ以来の本気の全力疾走だろうか、汗をかいて、腕を振り上げ、両の足を力強くがむしゃらに踏みだし続ける。

だが、体力の無い自分はすぐに肺が潰れて息が切れる。どうして、そんな人間が全力で走っているのか……電車の時間に間に合わない?違う。病院で瀬戸際の子供が居る?違う。殺人犯を追いかけている?近いけど違う。追いかけているのでなく、逆……そう、御堂福太郎は追われているのだ。ふり返りはしないが奴の音が耳に届く。

テケテケテケテケテケテケ……!
テケテケテケテケテケテケ……!

異様な足音。違う、足音じゃない。追いかけてきている奴に足はない、正確には腰から下がない。それでも奴は追ってくる両手で地面を叩いて走ってくるのだ。生前は女であったのかおぞましいボサボサの髪を振り乱して追いかけてくる。

テケテケ【オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!】

テケテケテケテケテケテケ……!
テケテケテケテケテケテケ……!

福太郎「はぁはぁ……あとちょっと……あとちょっとガンバレ俺っ!!」

テケテケ【オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!】

化け物は福太郎の後ろ数メートルまで追いついていた。いつ飛びつかれてもおかしくない。

福太郎「だあっ!!」

メリー「えいっ!!」

電柱を通り過ぎる瞬間、福太郎は頭から前へと飛んだ。それに合わせて柱の影に隠れていたメリーがロープを引っ張った。ちょうど歩いていたら足が引っ掛かる高さに糸の結界が張られた。

テケテケ【ぎぃっーー!!】

福太郎「なっ!」

メリー「あっ!」

異形の亡霊は跳ねた。糸の結界を回避して、地面に伏している福太郎さえ飛び越えた。

悠「はい、ベストポジション!!!」

テケテケ【!?】

着地位置に現れた悠はテケテケの顔面に膝をめり込ました。バトミントンの羽根のように打ち返されて地面にボトリと落ちる。

悠「さらーに、追撃!!」

約100㎏の体躯で異形の顔を踏み潰す。ぐちゃっと水気を帯びた音がした。

福太郎「はぁー」

メリー「ご主人様、大丈夫?」

福太郎「んー……平気……かな。きっと明日は筋肉痛やけど」

悠「ツーステップ、ツーステップ……」

ごちゃ、ぐちゅ、ごぎゅ、ぶちゃ……

メリー「けど、ご主人様、かっこよかった//」

福太郎「はは、メリーちゃんもよう頑張ったで、縄引くタイミングは完璧やったし」

悠「スタンピング、スタンピング……」

ミヂヂ、ぐぢゅ、みびゃ、びちゃ……

福太郎「んーと……悠?」

悠「無駄無駄無駄無駄ぁあぁぁあ!!えっ?なに?呼んだ?」

福太郎「そっちに向いてええかな?」

悠「うん、バッチ来い。おれの笑顔を向けてやる。きっと、胸キュンして親愛度が振り切ってチュチュしたくなっちゃうぞ。」

福太郎「え、ごめん、なんかいうた?」

悠「難聴の主人公はもうお腹いっぱいだと思うぞ」

福太郎「なんでやろか……今、「お前が言うな」っていう言葉が聞こえてきた」

悠「あー?」

福太郎「ええわ、それよりテケテケは?」

悠「成仏したよ、きっと」

メリー「圧殺って成仏っていうの?」

悠「死んではないだろ。元から死んでる訳だし……ま、作戦成功だ」

福太郎「ほな、どっかでご飯でも食べてかえろか、てゆか、喉がカラカラや。」




~都市伝説~

【テケテケ】

テケテケとは、下半身が欠損した姿で描写される亡霊の呼び名、またはそれにまつわる話の題名である。亡霊が、両腕を使い移動する際に「テケテケ」という音がするため、この名で呼ばれるとされる。
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