第七夜『福太郎の不思議な日常』

ー青木ヶ原樹海ー

福太郎「んー、よし、こんなもんかな」

ラム「ちょっと…」

福太郎「ん?」

ラム「ん?じゃないわよ。ひとりで随分と奥まで移動したと思ったら絵なんか描いて」

福太郎「いやー、一度青木ヶ原樹海の絵を描いてみたいなぁておもてて」

ラム「随分と荷物が多いと思ったら絵の道具だったのね」

福太郎「あはは」

ラム「笑い事じゃないわよ。ったく、一応ボランティアなんだから真面目にしてよ。私が怒られるか白い目で見られるんだから」

福太郎「それは、サーセン。けど、描き終わるまで待っててくれたラムさんは優しいなぁ」

ラム「そういうのはいいからさっさと片付ける」

福太郎「はい…」

ラム「まったく……。もうすでに何体か見つかってるのよ?」

福太郎「マジすか」

ラム「えぇ。アナタもひとつくらい見つけられないの?ほら、その辺りの虫とかに話し聞いて」

福太郎「んー、無理ちゃうかな」

ラム「理由は?」

福太郎「確かに俺は生き物と話せますけど、それは相手も話す気が有ることが条件なんよね。ペットとか人間と近い位置におる都会の野良とかやったら話しに応じてくれるけど、こういうところの完全野生な生き物はあんまり心開いてくれんのですよ」

ラム「そうなんだ……。あっ、ついでに聞きたかったんだけど」

福太郎「ん?」

ラム「例えば海外の動物、外国産の犬とかってどうなの?英会話になるの?」

福太郎「いや、それは会話に応じてくれたなら翻訳(?)されて聞こえるよ。」

ラム「へー、その辺は便利ね。」

福太郎「道にだけは迷っても鳥に聞けば一発ですわ」

ラム「さて、とりあえず私はまだ探しに行って来るから、ちゃんとひとのいるところいてよ?」

福太郎「んっ、転ばんよにね」

ラム「うっさいわ!」

ラムと別れた後、すぐに開けた場所まで戻った。青木ヶ原樹海公園と書かれた大きな掲示板。その傍には「自殺防止呼びかけ箱」などと書かれたボックスまである。

ここは公園とは名ばかりで自殺者御用達の入口らしい。そして嫌でも目に入るのが大きな布がかかった物が三つ。成人女性並のサイズがふたつと成人男性大のがひとつ。警察の人が二人一組でひとつひとつを調べながら手元に何かを書きこんでいる。

坊主頭の男「な~んでこんなとこ来ちゃったのかね……俺」

ベンチにかけてひとりぼやいている学生(?)がいた。

福太郎「すんません、隣ええですか?」

坊主頭の男「え、あー、どうぞ」

福太郎「よいしょっと……学生さん?」

九郎「はい、唐津九郎です。仏教学部四年。」

福太郎「俺は御堂福太郎。知り合いさんに頼まれて参加した……一応社会人かな。唐津さんはやっぱりお坊さん?」

九郎「いやー、そうじゃないんすよね。家も寺とかじゃないし」

福太郎「んっ、そうなん?」

九郎「あぁ、大学生にとって四年目の冬は長いじゃないすか。特に俺みたいに偏差値が手ごろってだけで考えもなく大学入った者には」

福太郎「んー、分かるわ。四年後にツケが回ってきた感じ?」

九郎「そうなんすよ……。求人も修行僧募集とか在家僧急募とかばっかりでふつーの求人ないし」

福太郎「なにそれ、ちょっとおもろいやん」

九郎「笑えないっすよ…。」
28/100ページ
スキ