第禄夜『福太郎の不思議な日常』

ーとある神社ー

福太郎「ふー……寒い」

クロ「もう少し厚着してきたら良かったな。今日は本当に冷える」

福太郎「最悪、クロが俺を包み込んでくれるってことで」

クロ「嫌だ」

福太郎「ほんなら、犬の姿になってもらってそれを俺が抱っこするパターンでどうやろ?」

クロ「嫌だ」

福太郎「ちぇー。缶コーヒーでも買ってこよかな」

クロ「……犬じゃねぇよ!!」

福太郎「反応がかなり遅かった……あ。」

クロ「来たか」

テシロ『……』

福太郎「おーい、テシロ」

テシロ『おぉ、福太郎様に大神様』

福太郎「猫缶買ってきてん。食べていき」

クロ「遠慮はいらねぇーぞ」

テシロ『本当ですか!いただきます。』

福太郎「あいあい」

テシロ『はぐはぐ、はぐはぐっ』

福太郎「美味いか?」

クロ「よし、帰るぞ」

福太郎「んっ、え?帰るん?」

クロ「帰るんだよ」

グィッ
福太郎「ちょっ、えぇ……テシロまたなぁ」

それから三晩、テシロに猫缶を届ける日が過ぎた。



ー池袋:とある飯屋ー

久三は床に伏せいた。愛猫のテシロも帰って来ない。これからの事をどうしようかと考えていたそのとき……

テシロ『みゃあ』

久三「テシロ?何処へ行ってたんだい」

鳴き声のするほうに手を伸ばすと冷たい何かに触れた。

テシロ『なーお』

久三「どこに行ってたんだ。すっかり体が冷えてるじゃないか。」

テシロ『なーお』

テシロは久三の顔を舐める。

久三「そら、もういいから布団にお入り。お前がずっと舐めてくれていたお陰かね。すっかり痛みが消え…て?」

ぼんやりと映るテシロの姿。見える。右目だけだが、なにも見えなくなっていたはずの目に光が戻っていた。

テシロ『にゃー』

久三「てっ、テシロ!!なんてこったこんなに痩せちまって、おまけに片目が……」

ふくよかだったはずの身体は痩せこけ、右目を閉じたテシロ。何年も経ったような見姿になってしまっていた。

テシロ『みゃお』

久三「まさか……お前」

テシロ『みゃおぉぉぉん』

まるで笑っているような顔で大きくひと鳴きするとテシロはグッと頭を下げて外へと飛び出していく。

久三「テシロ!」

テシロ『にゃんっ』

久三「これ!何処へ行く!!」

離れていくテシロ。見失わないよう、久三ははだしのまま飛びだした。

テシロ『にゃにゃにゃん』

久三「外は寒いよ!!戻っておいで!あったけぇ家に入ろう!なぁテシロ!テシロ……」

テシロ『みゃぉっ!』

呼びかければ返事はするもののテシロは決して止まりはしなかった、そしてあっという間に夜の闇のなかに消えてしまった。

久三「テシ…ロ」

完全に見失い返事も返らない。久三はがくっと膝をついた。

福太郎「おじいさん、風邪ひいてしまいますよ。お宮さんに願掛けに行ったテシロが悲しむで」

久三「目が……」

福太郎「うん?」

久三「目が見えるようになったとて家族が消えて喜ぶ奴がいるものですか……テシロってやつは……そんなことも分からねぇ。馬鹿な猫なんですよ。うぅっ……うぅっ……」
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