第零夜『変わり始めた僕の日常』
「幽霊じゃ無く妖怪なのかー」
「そうかぁ妖怪かー」
「ところでフクタローは……食べていい人類?」
お母さん、お父さん、僕はもしかしたらこの世からさようならしてしまうかも知れません。
「食べられるんは嫌やな……もしかして腹へっとるん?」
「お腹すいてるのかー。」
「じゃあ……なんか食べさせたら俺を喰うンはやめてくれる?」
「んー……」
初めて伸ばしていた手を組んだ。逆さまでフラフラと浮遊しながら考えているようだ。スカートが完全にまくれてドロワーズが丸出しになっている。
「何を食べさせてくれるのかー?そこの猫なのかー?」
ルーミアは頭の下で丸くなって眠ったままのミツバを指さした。それはとても困ってしまう。俺は慌てて頭を左右に振っていった。
「その子も勘弁してくれんかな。大事な……友達やから」
「友達なのかー。それは大切にしないとダメなのかー。」
「せやね。」
「それじゃあ、何を食べさせてくれるのかー?」
「えーと、(ちくわ)カレーくらいなら、ちょっと時間くれればできるけど……あ、すぐに食べたいならお菓子があるけど」
近くに放りだしていたポリエチレンの袋からポテトチップスを抜き取って彼女に差し出だした。浮遊少女はマジマジとソレを見つめて指で突いたり、鼻を近づけてにおいを嗅いだりする。逆さまのままで……。どこか小動物を思わせる仕草を眺めてるとルーミアは突然大きく口を開いた。あどけない幼女の外見からは想像できないほど鋭利な牙を向いてポテトチップスの袋に噛みついた。袋だけを喰いちぎって口の中でもごもごさせた。だが、当然食べられるわけがない。
「……うぇーおいしくないのかぁ。」
「ペッする!ぺっ!ポテチはなかのコレや!袋は食べるもんと違うて!」
破れて中身があらわになったポテチを一枚持ってルーミアに向ける。騙してるんじゃないかという視線で俺の顔とポテチを交互に見る。
「いや、こっちは大丈夫やって、食べもんやから。ほら、見といてみ。」
俺は自分の口にポテチを放りこんで、わざと大きく口を動かした。パリボリと音を立てて食べる。呑みこむまでしっかりと見てから、自分もポテチを一枚とってかじった。口に含むこと数秒、コクンッと小さな喉を鳴らして呑みこむ。
「どや、美味しかったか?」
「す……」
「す?」
「すっごくおいしいのかー!」
どうやら気にいってもらえたらしい。今のところで最高の最大の笑顔を見せてくれた。とりあえず命の危機は去った。残りのも食べていいよと袋を渡すと、ルーミアはドザザとポテチを口の中に流し落とすと、ほぼ一口で食べてしまった。見事だった。
「ごちそうさまなのかー!」
「あ、はい、おそまつさん……やけど、ちょっとじっとして」
口の周りが油だらけなので拭いてあげる。
「んんっ……フクタローはいいひとなのだー。」
「そら、どうも。」
ルーミアは両の小さな手をひらひら振った。マイペースな調子に、こちらもついつい振り返してしまった。すると彼女の周りに黒い膜の様なものが現れた。みるみるその黒に覆われてすっぽりと全身が見えなくなる。黒い球体だ。
おれはとりあえず話しかけてみた。
「えと……ルーミアさん?」
「それじゃ、バイバイなのかー」
彼女の声はしっかりと聞こえた。どうやら、何か異常事態が起きたわけでは無いらしい。黒い球体はフラフラとユラユラと部屋の中を浮遊して、何度か天井や壁にぶつかって入ってきた窓から出ていった。外の闇と彼女の黒が一体となった時には既に何処に居るか分からなくなっていた。彼女は闇夜の正体だったのか?それとも俺が今だ眠りの中で見続けている夢の住人なのだろうか……。
立ちつくしたまま今起こったことを反芻していると前からでなく、背後から風が吹いた。ふり返るより先に声が飛んでくる。
「闇夜の正体っていうのはなかなか面白い考えね。彼女は宵闇の妖怪よ」
「そうかぁ妖怪かー」
「ところでフクタローは……食べていい人類?」
お母さん、お父さん、僕はもしかしたらこの世からさようならしてしまうかも知れません。
「食べられるんは嫌やな……もしかして腹へっとるん?」
「お腹すいてるのかー。」
「じゃあ……なんか食べさせたら俺を喰うンはやめてくれる?」
「んー……」
初めて伸ばしていた手を組んだ。逆さまでフラフラと浮遊しながら考えているようだ。スカートが完全にまくれてドロワーズが丸出しになっている。
「何を食べさせてくれるのかー?そこの猫なのかー?」
ルーミアは頭の下で丸くなって眠ったままのミツバを指さした。それはとても困ってしまう。俺は慌てて頭を左右に振っていった。
「その子も勘弁してくれんかな。大事な……友達やから」
「友達なのかー。それは大切にしないとダメなのかー。」
「せやね。」
「それじゃあ、何を食べさせてくれるのかー?」
「えーと、(ちくわ)カレーくらいなら、ちょっと時間くれればできるけど……あ、すぐに食べたいならお菓子があるけど」
近くに放りだしていたポリエチレンの袋からポテトチップスを抜き取って彼女に差し出だした。浮遊少女はマジマジとソレを見つめて指で突いたり、鼻を近づけてにおいを嗅いだりする。逆さまのままで……。どこか小動物を思わせる仕草を眺めてるとルーミアは突然大きく口を開いた。あどけない幼女の外見からは想像できないほど鋭利な牙を向いてポテトチップスの袋に噛みついた。袋だけを喰いちぎって口の中でもごもごさせた。だが、当然食べられるわけがない。
「……うぇーおいしくないのかぁ。」
「ペッする!ぺっ!ポテチはなかのコレや!袋は食べるもんと違うて!」
破れて中身があらわになったポテチを一枚持ってルーミアに向ける。騙してるんじゃないかという視線で俺の顔とポテチを交互に見る。
「いや、こっちは大丈夫やって、食べもんやから。ほら、見といてみ。」
俺は自分の口にポテチを放りこんで、わざと大きく口を動かした。パリボリと音を立てて食べる。呑みこむまでしっかりと見てから、自分もポテチを一枚とってかじった。口に含むこと数秒、コクンッと小さな喉を鳴らして呑みこむ。
「どや、美味しかったか?」
「す……」
「す?」
「すっごくおいしいのかー!」
どうやら気にいってもらえたらしい。今のところで最高の最大の笑顔を見せてくれた。とりあえず命の危機は去った。残りのも食べていいよと袋を渡すと、ルーミアはドザザとポテチを口の中に流し落とすと、ほぼ一口で食べてしまった。見事だった。
「ごちそうさまなのかー!」
「あ、はい、おそまつさん……やけど、ちょっとじっとして」
口の周りが油だらけなので拭いてあげる。
「んんっ……フクタローはいいひとなのだー。」
「そら、どうも。」
ルーミアは両の小さな手をひらひら振った。マイペースな調子に、こちらもついつい振り返してしまった。すると彼女の周りに黒い膜の様なものが現れた。みるみるその黒に覆われてすっぽりと全身が見えなくなる。黒い球体だ。
おれはとりあえず話しかけてみた。
「えと……ルーミアさん?」
「それじゃ、バイバイなのかー」
彼女の声はしっかりと聞こえた。どうやら、何か異常事態が起きたわけでは無いらしい。黒い球体はフラフラとユラユラと部屋の中を浮遊して、何度か天井や壁にぶつかって入ってきた窓から出ていった。外の闇と彼女の黒が一体となった時には既に何処に居るか分からなくなっていた。彼女は闇夜の正体だったのか?それとも俺が今だ眠りの中で見続けている夢の住人なのだろうか……。
立ちつくしたまま今起こったことを反芻していると前からでなく、背後から風が吹いた。ふり返るより先に声が飛んでくる。
「闇夜の正体っていうのはなかなか面白い考えね。彼女は宵闇の妖怪よ」