第禄夜『福太郎の不思議な日常』

ー福太郎の部屋ー

福太郎「よし……ちょっと出て来るわ」

お仙『買い物カ?』

福太郎「んーん、頼まれとった猫絵を渡しに行って来る」

クロ「あー、じゃあ私もいく」

福太郎「んっ、ええけどなして?」

クロ「暇だから」

お仙『マッサージしてくれてもいいヨ?』

クロ「やかましい。」

お仙『もー、照れ屋さんなんだかラ』

クロ「ぶっ飛ばすぞ!」

メリー「手痛くなるよ」

クロ「ぐっ」

福太郎「はいはい、ほんならいくよ。みんなは留守番よろしく」

お仙『ゴーレムのように鉄壁の守りでここを守るル!』

福太郎「ラリホーか妖精の笛でイチコロやでその門番」




ー夢見長屋近くの通りー

福太郎「このあたりでおるはずなんやけどな」

クロ「アレじゃないか?」

福太郎「んっ、おーい。」

テシロ『おぉ、御堂様と……』

福太郎「こっちはクロ。まぁ、分かると思うけど」

クロ「大神だ。大神」

テシロ『クロ様ですか。お初にお目にかかります。テシロと申します』

福太郎「んっ、描いてきた絵なんやけど」

テシロ『はい、その事なのですが、お手数なのですが……ご主人に直接渡していただけないでしょうか』

福太郎「んっ、かまへんよ」

テシロ『ありがとうございます。それでは着いてきてください』

福太郎「はいはい」



ー池袋:古風な飯屋ー

テシロ『ここです。』

福太郎「着いてきてからいうんもアレなんやけど」

テシロ『なんでしょうか?』

福太郎「いきなり俺が入っていって絵をどうぞ……いうて渡したら不気味やない?」

テシロ『……はっ?!』

クロ「考えてなかったんかい……。」

テシロ『で、ではこうしましょう。私が絵を咥えてはいるので、その後に御堂様たちが入って絵をくださる流れで』

福太郎「んっ、ええよ。知恵がまわるやん」

クロ「初めっからそうやって黙って持っていけばよかったんじゃないのか?」

テシロ『泥棒したと思われて悲しまれるのが嫌なのです。それでは、いきます』

老店主「おや、テシロお帰り。って、なに咥えてるんだい?」

テシロ『にゃーお』

老店主「巻物?いや、こりゃ絵だねぇ」

福太郎「んっ、すんませーん。」

店主「いらっしゃいませ」

クロ「アア、ヤッパリモッテイッチャッタミタイダナ」

福太郎「クロ……不自然」

クロ「う、うっせぇ」

老店主「もしかして、これお客様の物ですか?」

福太郎「んっ、はい、そうなんですけど」

老店主「それは……なんて申し訳ないことを」

福太郎「んっ、いやいやええんですよ。その猫ちゃんも気にいってしもたみたいやし良かったらどうぞ」

老店主「いや……しかし……」

福太郎「猫絵いうて鼠避けの物なんですよ。ちょっとしたお守り代わりにでもどうぞ」

老店主「ほう……。そうですか、それはちょうど良い。前はコイツがよく鼠を捕ったもんだが年のせいか近年は寝てばかりで鼠が増えて困っていたんですよ。」

福太郎「そうなんですか、それはそれはちょうどよかったですわ」
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