第禄夜『福太郎の不思議な日常』

ー遊霊団地ー

遊霊(ゆうれい)団地。夢見長屋から南に位置する場所にある団地。百鬼襖が配備されている歪業屋及び妖怪専用の団地。

その一室……

プルルル、プルルル、プルルル、プルル……ピッ

出雲「もしもし」

『どうも襖係です。出雲さん?こんにちはーお久しぶりです』

出雲「あ……はい……」

『福太郎さんがやってくれましたよ!!夜彦さん大分まるまなったみたいです。さすがだなぁ』

出雲「そっすか……」

夜彦の件から数日、俺が尻尾を巻いて逃げている間に福太郎さんはうまくやったらしい。本当にヘコむ。

『あ、そうそう仕事の話なんですが……』

そしてヘコんでいても仕事はやってくる。




ー遊霊団地:百鬼襖の部屋ー

俺、歪業屋の才能ないんじゃないかな…。

襖のまえで落ち込んでいる間にリンリン、リンリンと鈴の音が鳴り始める。

出雲「はぁ……いらっしゃいませ」

襖から出てきたのはふわりとした綿菓子みたいな頭にやや青白い肌とところどころに見える鱗。ほぼ人間に化けきれている女妖だった。

澄子「お前が歪業屋だな!わた…俺は澄子(すみこ)!よろしく……なっ!」

何を思ったのか澄子はいきなり笑顔で腕を殴って来た。

出雲「いってぇ!!」

澄子「なんだよー弱ぇヤツだな!」

出雲「骨に当たってんだろ!!」

頑張らなきゃいけないのに……いきなり心折れそう……。


~~

そして始まった澄子の教育……ここ数日で分かったがコイツ(澄子)は変な奴だ。

彼女は人魚って妖怪で歩けるとは言ってもたまにこけそうになる。そういう時に少し手を貸すと……

澄子『わっと…』

出雲『おい、大丈夫か』

澄子『女扱いしてんじゃねぇ!!』

出雲『はいはい…』

お菓子も女物の服も手をつけない。

趣味なら良いんだが無理しているように見えんだよな……福太郎さんならこんなとはどうするんだろ?

あれ……なんで今俺、福太郎さんだったらって考えたんだ?あれ?俺って今までどうやって歪業してたっけ……



ー池袋界隈ー

今日は生活が慣れてきたので初めて外に散歩に出ることにした。

澄子「おー、凄い高い建物ばっかりだな」

出雲「あとから色々説明するから迷子になるなよ」

澄子「はいはい」

金髪の男「あ、直センパイだ!」

坊主の男「おひさしぶりっす!」

出雲「おー久しぶり」

坊主の男「先輩こんな昼から何してんスかプーっすか?」

出雲「ぷーじゃねーよ。前にも在宅の仕事っていったじゃねぇか。」

金髪の男「あれ、この子は誰っすか?」

坊主の男「こんにちは」

澄子「な、な、なにガンたれてんだよ!!」

金髪の男「えっ」

坊主の男「えっ」

澄子「やややややんのかこらぁーー!」

なぜか急に飛びかかろうとする澄子を羽交い絞めにして止める。

出雲「わーー待てコラッ!!」

坊主の男「ごめん睨んだつもりはないんだけど…」

金髪の男「なんかごめんね。えっとその子……」

出雲「イトコ!!少しの間預かってるんだ悪いなコイツ切れやすくて。すまん、じゃまたな」

澄子「ふー!ふーー!」

人魚なのに切れた猫みたいに興奮気味の澄子を引きずって連れて帰る。

坊主の男「先輩ってホント面倒見いいよなー」

金髪の男「なー俺もあんな風になりたい」
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