第禄夜『福太郎の不思議な日常』
ー福太郎の部屋ー
出雲「力加減はしろよ~」
夜彦「わーってるって何回言わせるんだ馬鹿。」
出雲「ははっ」
夜彦「お前はいいよ。俺の自由にさせてくれるからな。向こうで「歪み」を渡り歩いていた時は、こっちが手ぇ出すとすぐに刀やらなんやら出すからな。こっちじゃ武器を出す発想がねぇから、暴れるなら現代(こっち)がいい」
福太郎「……」
由乃「……」
福太郎と由乃の背筋に冷たいものが走った。それは夜彦の存在もあるが、それ以上に気持ちの部分だった。
確かに刀は出て来ないかもしれない。だが、今の現代でも、否むしろ今の現代だからこそ何をしてくるか分からない人間はたくさんいる。
夜彦「?」
福太郎「えっと……歪みって?」
由乃「妖怪の世界の呼び名の事です。人間の世界と違って妖怪には沢山の世界があるんです。私たちが良く「向こう側」って呼ぶのはその総称。神隠しや妖怪の張った結界で現代から取り残された世界の事なんですけど、その世界たちは歪(ひずみ)のように存在している。だから歪(ゆが)み」
夜彦「そーそー、どの歪みの人間も武器持って反撃してきたけど現代は強ぇモンには刃向かわねぇから楽しい」
由乃「…………」
福太郎「(こらアカン…)それはちょっと…」
出雲「いやいや割と大丈夫っす。心配し過ぎ」
福太郎「いや、直さん。別に他人にまったく迷惑をかけるなとはいわへんけど、人を故意に傷つけるんを笑って見過ごすいうんはどうなんやろか?」
出雲「……」
福太郎「夜彦さんも妖怪同士の小競り合い感覚でおったらアカンよ。人間と生活するうえで一番したらアカンことやで」
夜彦「ぷっ」
福太郎「……」
夜彦「お前と同じこと言ったヤツが居たよ。俺には二人の義理の兄貴がいるんだが、こいつら俺と血もつながってないくせに俺に説教するんだ。」
『人間の世界に身を置くなら妖怪の力で暴力を振るうのはよせ。いずれ誰も彼も愛想を尽かしてひとりになるぞ』
夜彦「だってさ、バカみてー。俺は気にいらない奴は殴るし。誰かに愛想を尽かされたってひとりで生きていける。それが俺の生き方だ」
福太郎「まるで……いじめっ子みたいやな」
夜彦「……あ?今なんつった?」
一拍おいて夜彦は福太郎の胸ぐらを掴むと立ち上がらせて壁際に追いやっていく。
福太郎「ちょっと…落ち着いて…」
夜彦「力のある奴が力を使って何が悪い!あ?」
出雲「お……おい夜彦……」
夜彦「うるせえ!!」
福太郎「君のしとることはただ弱い人をいじめていい気分になりたいだけやない?それは最低で卑怯もんがすることや」
夜彦「っ!」
刹那、夜彦の拳が福太郎めがけ動いた。
出雲「おいっ!」
由乃「福太っ……!」
ガシャンっと何かの割れた音が部屋の中に響く。
夜彦の拳は福太郎の顔すれすれをかすり後ろの硝子戸を割っていた。一応当てなかったという脅しなのだろう。
夜彦「これでも手加減してるんだぜ?お前だって怖くて動けないんだろ、泣いていいぞ?」
福太郎「……よ」
夜彦「あ?」
福太郎「こんな暴力は怖ないよ。本当に怖い暴力を俺は知っとるんよ。本当に怖いのは「そのつもりがないのに」暴力になってしもうた力や。自分の力が怖くて心を病んだり夢を諦めかけた妖怪を今までたくさん見てきた。だからこんなんは全然怖ぁない。「暴力になってしまった力」の方が何百倍も辛ぁて怖いで?」
夜彦「っ……」
そのとき、ジリリリッと電話のベルが鳴りだした。福太郎はそっと夜彦を抜けて電話に向かう。
福太郎「俺もな妖怪がありのままに暮らせたらええなって思ってますよ。せやけど……あなたのしとることはただのワガママを黙って見ていただけとちゃうかな。」
出雲「…………」
福太郎「はい、もしもし?」
『もしもしー「襖係」です。いやーすみません。また夜彦さんが暴れたようなので一番近くの御堂さんのお宅にお電話させていただきましたー。夜彦さんは問題を起こし過ぎました。こちらで強制的に引き取ります?あ、これ聞こえてますよねー?出雲さーーん?』
夜彦「チッ」
出雲「……」
『返事がないようなのでこちらで引き取るってことでいいですかね』
人間に危害を与えないように現代に来た妖怪は「襖係」に監視されている。
襖係とは歪業屋を手助けする妖怪たちの事で妖怪が現代に来る手続きをするのも自分勝手で現代に適さない妖怪を連れ帰るのも襖係の仕事。
彼もこのままなら向こうに連れていかれるだろう。
福太郎「いいえ」
夜彦「!」
福太郎「今日から夜彦さんは俺が担当しますわ」
出雲「力加減はしろよ~」
夜彦「わーってるって何回言わせるんだ馬鹿。」
出雲「ははっ」
夜彦「お前はいいよ。俺の自由にさせてくれるからな。向こうで「歪み」を渡り歩いていた時は、こっちが手ぇ出すとすぐに刀やらなんやら出すからな。こっちじゃ武器を出す発想がねぇから、暴れるなら現代(こっち)がいい」
福太郎「……」
由乃「……」
福太郎と由乃の背筋に冷たいものが走った。それは夜彦の存在もあるが、それ以上に気持ちの部分だった。
確かに刀は出て来ないかもしれない。だが、今の現代でも、否むしろ今の現代だからこそ何をしてくるか分からない人間はたくさんいる。
夜彦「?」
福太郎「えっと……歪みって?」
由乃「妖怪の世界の呼び名の事です。人間の世界と違って妖怪には沢山の世界があるんです。私たちが良く「向こう側」って呼ぶのはその総称。神隠しや妖怪の張った結界で現代から取り残された世界の事なんですけど、その世界たちは歪(ひずみ)のように存在している。だから歪(ゆが)み」
夜彦「そーそー、どの歪みの人間も武器持って反撃してきたけど現代は強ぇモンには刃向かわねぇから楽しい」
由乃「…………」
福太郎「(こらアカン…)それはちょっと…」
出雲「いやいや割と大丈夫っす。心配し過ぎ」
福太郎「いや、直さん。別に他人にまったく迷惑をかけるなとはいわへんけど、人を故意に傷つけるんを笑って見過ごすいうんはどうなんやろか?」
出雲「……」
福太郎「夜彦さんも妖怪同士の小競り合い感覚でおったらアカンよ。人間と生活するうえで一番したらアカンことやで」
夜彦「ぷっ」
福太郎「……」
夜彦「お前と同じこと言ったヤツが居たよ。俺には二人の義理の兄貴がいるんだが、こいつら俺と血もつながってないくせに俺に説教するんだ。」
『人間の世界に身を置くなら妖怪の力で暴力を振るうのはよせ。いずれ誰も彼も愛想を尽かしてひとりになるぞ』
夜彦「だってさ、バカみてー。俺は気にいらない奴は殴るし。誰かに愛想を尽かされたってひとりで生きていける。それが俺の生き方だ」
福太郎「まるで……いじめっ子みたいやな」
夜彦「……あ?今なんつった?」
一拍おいて夜彦は福太郎の胸ぐらを掴むと立ち上がらせて壁際に追いやっていく。
福太郎「ちょっと…落ち着いて…」
夜彦「力のある奴が力を使って何が悪い!あ?」
出雲「お……おい夜彦……」
夜彦「うるせえ!!」
福太郎「君のしとることはただ弱い人をいじめていい気分になりたいだけやない?それは最低で卑怯もんがすることや」
夜彦「っ!」
刹那、夜彦の拳が福太郎めがけ動いた。
出雲「おいっ!」
由乃「福太っ……!」
ガシャンっと何かの割れた音が部屋の中に響く。
夜彦の拳は福太郎の顔すれすれをかすり後ろの硝子戸を割っていた。一応当てなかったという脅しなのだろう。
夜彦「これでも手加減してるんだぜ?お前だって怖くて動けないんだろ、泣いていいぞ?」
福太郎「……よ」
夜彦「あ?」
福太郎「こんな暴力は怖ないよ。本当に怖い暴力を俺は知っとるんよ。本当に怖いのは「そのつもりがないのに」暴力になってしもうた力や。自分の力が怖くて心を病んだり夢を諦めかけた妖怪を今までたくさん見てきた。だからこんなんは全然怖ぁない。「暴力になってしまった力」の方が何百倍も辛ぁて怖いで?」
夜彦「っ……」
そのとき、ジリリリッと電話のベルが鳴りだした。福太郎はそっと夜彦を抜けて電話に向かう。
福太郎「俺もな妖怪がありのままに暮らせたらええなって思ってますよ。せやけど……あなたのしとることはただのワガママを黙って見ていただけとちゃうかな。」
出雲「…………」
福太郎「はい、もしもし?」
『もしもしー「襖係」です。いやーすみません。また夜彦さんが暴れたようなので一番近くの御堂さんのお宅にお電話させていただきましたー。夜彦さんは問題を起こし過ぎました。こちらで強制的に引き取ります?あ、これ聞こえてますよねー?出雲さーーん?』
夜彦「チッ」
出雲「……」
『返事がないようなのでこちらで引き取るってことでいいですかね』
人間に危害を与えないように現代に来た妖怪は「襖係」に監視されている。
襖係とは歪業屋を手助けする妖怪たちの事で妖怪が現代に来る手続きをするのも自分勝手で現代に適さない妖怪を連れ帰るのも襖係の仕事。
彼もこのままなら向こうに連れていかれるだろう。
福太郎「いいえ」
夜彦「!」
福太郎「今日から夜彦さんは俺が担当しますわ」