第零夜『変わり始めた僕の日常』
『あそこ凄くいいんですよぉ。』
「うーん、せやけど、俺にはちょっとそこは無理やわ。」
『えっ?』
きょとんとした顔で俺を見上げるミツバ。数十秒そのままでいると気がついたらしくプイッと俺から目をそらした。
『す……すみません!つい猫仲間と一緒にいる感覚で……。』
ボーダーレスなやつです。そして若干はずかしらしくぶんぶんと尻尾を振っていた。
俺はミツバの横にすわっていった。
「でも、あったかて場所把握してるんは凄いよな」
『そうですかね?』
「うん。俺やったらそんなん覚えとらんし。んー……。」
ごろんと横になる。早起きしたのに意味なく眠気が襲ってきていた。枕がほしいけど、取りに行くのはめんどくさい。腕枕で頭の座りがいい位置を決めてた。これをすると起きたときに手が痺れてしまうけど、ついつい目先の快楽にまけてやってしまう。
「このまま昼寝しよーか」
『いいですねぇー。』
ミツバも俺の側で丸くなった。ミツバはもう寝息をたてている。セミの鳴き声、風に揺れてかすり合う葉の音、遠くから聴こえてくる工事の音、その日に限って恐ろしいほどに噛みあった、生命と自然と人工物の音色が耳から入って脳へ侵食して血管を透って全身へと広がっていく。意識を手放す手まえのまどろみ……けど、いつもと違っていた。気持いいではなく、快楽……。ほどなくして俺は快楽の闇に呑まれていった。
「やってもうた」
第一声がこれ。俺は見馴れた滲みだらけの天井を見た。電気が白く部屋を照らしているという事は既に夜になってしまったという事だ。首を右に倒す。ミツバはまだ丸くなったままだ。ふわふわのお腹が膨れては萎むを繰り返していた。自分が動いたら起きてしまうかもしれないが、晩御飯の(ちくわ)カレーを作らないといけない。ゆっくりと、上体を起こした。
背中に風が当たる。そういえば窓を開けっぱなしていたんだった。蚊が入ってくる前に閉めておこうと立ち上がってふり返る。真っ暗な闇が広がり、キラキラと散らばった星々の輝きはまるで黒い画用紙に砂糖を振りまいたようだった。そして両手を真横に広げた金の髪に赤いリボンを結わった女の子が浮かんでいて、その背にはまん丸の月が空高く陣取っていた。夏の夜らしい綺麗な夜空だ。
俺はそこでそっと目を閉じた。大きく息をすって、吐く、吸って、吐く……三度深呼吸をしたあともう一度ゆっくりと目を開けた。
「こんばんわなのかー」
居ます。どうやら、寝ぼけたわけでは無いようです。屈託のない笑顔で女の子に挨拶されました。おじいさん、おばあさん、どうしましょうかこんなにドキドキしたのは産まれて初めてです。動物と話すのよりある意味新鮮です。
「こ……こんばんわ」
俺も負けじと全力の笑顔で挨拶をしました。少女は気を良くしたのか、近づいてきました。もちろん空中に浮遊したまま。
「誰なのかー?」
「えーと、御堂福太郎いいます。」
「フクタロウなのかー。私はルーミア、よろしくなのかー」
にこにこと笑顔を崩さずにルーミアは会釈する。喋り方はともかく礼儀はいい子なのかもしれない。
「よろしゅう」
「あはは、変な喋り方なのかー」
まさか、ルーミアに変な喋り方といわれるとは思わなかった。ケラケラと笑いながら決して広くは無い室内を縦横無尽に漂っている。機嫌が良いようなのでもう少しコミュニケーションをはかってみることにした。
「ルーミアはなんなん?幽霊とかか?」
足は見えているけど、近頃の幽霊だから足があってもおかしくない。映画やアニメのゾンビだってノロノロしてるのより走りまわったり重火器を乱射してるぐらいだし。
「うーん、せやけど、俺にはちょっとそこは無理やわ。」
『えっ?』
きょとんとした顔で俺を見上げるミツバ。数十秒そのままでいると気がついたらしくプイッと俺から目をそらした。
『す……すみません!つい猫仲間と一緒にいる感覚で……。』
ボーダーレスなやつです。そして若干はずかしらしくぶんぶんと尻尾を振っていた。
俺はミツバの横にすわっていった。
「でも、あったかて場所把握してるんは凄いよな」
『そうですかね?』
「うん。俺やったらそんなん覚えとらんし。んー……。」
ごろんと横になる。早起きしたのに意味なく眠気が襲ってきていた。枕がほしいけど、取りに行くのはめんどくさい。腕枕で頭の座りがいい位置を決めてた。これをすると起きたときに手が痺れてしまうけど、ついつい目先の快楽にまけてやってしまう。
「このまま昼寝しよーか」
『いいですねぇー。』
ミツバも俺の側で丸くなった。ミツバはもう寝息をたてている。セミの鳴き声、風に揺れてかすり合う葉の音、遠くから聴こえてくる工事の音、その日に限って恐ろしいほどに噛みあった、生命と自然と人工物の音色が耳から入って脳へ侵食して血管を透って全身へと広がっていく。意識を手放す手まえのまどろみ……けど、いつもと違っていた。気持いいではなく、快楽……。ほどなくして俺は快楽の闇に呑まれていった。
「やってもうた」
第一声がこれ。俺は見馴れた滲みだらけの天井を見た。電気が白く部屋を照らしているという事は既に夜になってしまったという事だ。首を右に倒す。ミツバはまだ丸くなったままだ。ふわふわのお腹が膨れては萎むを繰り返していた。自分が動いたら起きてしまうかもしれないが、晩御飯の(ちくわ)カレーを作らないといけない。ゆっくりと、上体を起こした。
背中に風が当たる。そういえば窓を開けっぱなしていたんだった。蚊が入ってくる前に閉めておこうと立ち上がってふり返る。真っ暗な闇が広がり、キラキラと散らばった星々の輝きはまるで黒い画用紙に砂糖を振りまいたようだった。そして両手を真横に広げた金の髪に赤いリボンを結わった女の子が浮かんでいて、その背にはまん丸の月が空高く陣取っていた。夏の夜らしい綺麗な夜空だ。
俺はそこでそっと目を閉じた。大きく息をすって、吐く、吸って、吐く……三度深呼吸をしたあともう一度ゆっくりと目を開けた。
「こんばんわなのかー」
居ます。どうやら、寝ぼけたわけでは無いようです。屈託のない笑顔で女の子に挨拶されました。おじいさん、おばあさん、どうしましょうかこんなにドキドキしたのは産まれて初めてです。動物と話すのよりある意味新鮮です。
「こ……こんばんわ」
俺も負けじと全力の笑顔で挨拶をしました。少女は気を良くしたのか、近づいてきました。もちろん空中に浮遊したまま。
「誰なのかー?」
「えーと、御堂福太郎いいます。」
「フクタロウなのかー。私はルーミア、よろしくなのかー」
にこにこと笑顔を崩さずにルーミアは会釈する。喋り方はともかく礼儀はいい子なのかもしれない。
「よろしゅう」
「あはは、変な喋り方なのかー」
まさか、ルーミアに変な喋り方といわれるとは思わなかった。ケラケラと笑いながら決して広くは無い室内を縦横無尽に漂っている。機嫌が良いようなのでもう少しコミュニケーションをはかってみることにした。
「ルーミアはなんなん?幽霊とかか?」
足は見えているけど、近頃の幽霊だから足があってもおかしくない。映画やアニメのゾンビだってノロノロしてるのより走りまわったり重火器を乱射してるぐらいだし。