第伍夜『福太郎の不思議な日常』

ー百鬼襖の部屋ー

福太郎「ほんならまぁ、お茶も入ったし。ちょっと話し聞かせてもらえるかな。」

小鞠「なにこれ……カワイイ」

小鞠は目のまえに置かれたケーキを見てそわそわしている。

クロ「ケーキって言う菓子だよ」

福太郎「まぁ、これは俺が焼いたホットケーキにイチゴとクリーム乗せたもんやから大した味やないけどね。」

小鞠「こんなの作るなんて……あなた仙人なのね。」

福太郎「ハハハおおきに。それじゃあまず小鞠さんがこっちに来た理由を教えてくれる?」

小鞠「そうね……私は百々目鬼の母と化け狐の父のあいだに生まれた子なの。」

百々目鬼とは盗みを長年し続けてき身体中に目玉ができた女の妖怪のこと。母の血が濃いのか私も盗みが上手かった。盗む意味を知らず遊び感覚で物を盗っては楽しんでた。

そんな私に物を盗むのは悪いことだと根気強く教えてくれたのは父だった。

ある日、父が私に提案したの「盗んで遊ぶことをせず家の手伝いをしたら、それに見合ったご褒美をあげよう」と…。

手伝えば手伝った分好きなものをもらえたし、父や母に褒められるのは盗みが上手くいくより嬉しかった。

大きくなってお洒落に興味を持ってからも家業を手伝ったり働きに出たりしたお金で夢中になってお洒落したわ。

そんな生活の中でこっちの世界では「もでる」って仕事があるって聞いたのよ。

福太郎「じゃあ小鞠さんはお洒落のためにこっちに?」

小鞠「そうよ元々現代(こっち)の世界に興味があったのコツコツ働いてお洒落をするのって素敵じゃない。私カワイイ方だし絶対もでるになれるし絶対になるんだから!」

パクっとケーキを口に運んで意気揚々と宣言する彼女。

福太郎「モデルかぁ…。んー、俺で力になれるやろか……」

由乃「あー!ケーキいいなー…」

福太郎「由乃ちゃんのもあるよ。というか、どこいっててん?急に飛び出してって」

由乃「あ、小鞠ちゃんファッションに興味があるみたいだから少し前の雑誌と化粧品と私のお下がりで申し訳ないけど洋服を少し持ってきたの」

そういうと、床に雑誌や小物、綺麗に畳まれた服などを広げていく。

小鞠「ありがとう!(向こうと全然違う…)」

ケーキを片付け終わると小鞠はファッション雑誌に目をとらわれていた。

福太郎「どうぞ、由乃さん。俺の手作りで恐縮やけど」

由乃「いただきます。」

小鞠「現代のものって何からなにまでカワイイのね!どうしたらこんな恰好できるのかしら!現代にはどんな働き口があるの?はやくお洒落したいわ!」

福太郎「仕事含めいろいろ教えるし安心してな」

小鞠「でも私現代のこと割と知ってるわ。知ってることを勉強しても……」

福太郎「ほんなら復讐ってことで、もう一回な。」

小鞠「えー…」

クロ「知ってるようでしらねーもんなんだよ。握手だってああやっていきなり握って振りまわすもんじゃねーしな」

小鞠「えっ、でも挨拶だって…」

福太郎「んっ、まあ、些細な違いやきっと知らん発見があるはずやから、な?」

小鞠「はーい…」

それから小鞠ちゃんが現代のことを覚えるのにバイトに向けての勉強も化粧の仕方などよくも進んだ。特別な時間はかからなかった。

ずいぶんすいすい進むものだから少し不思議にも思ったり……。

彼女が言うには……向こうでも人間の側で生活していたから何となく接し方は知っていてイメージトレーニングしていたらしいからだそうだ。
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