第伍夜『福太郎の不思議な日常』

ー百鬼襖の部屋ー

リンリン♪リンリンリン♪

福太郎「おっ……鳴った」

クロ「さて……鬼が出るか蛇がでるか」

福太郎「そういう感じゃなかったはずやけど……まぁ、いらっしゃーい。」

元気よく襖をあけると中から出てきたのは鬼でも蛇でもなく、紫陽花色の着物に絹糸のように長く柔らかな黒髪をなびかせた肌の白い女性だった。

着物の女性「……」

クロ「(人間…?)」

福太郎「(あれ……人間?)んっ、えーと、はじめまして歪業屋の御堂福太郎です。」

クロ「クロだ」

小鞠「アンタらが歪業屋?はじめまして!私は小鞠っていうの!!」

小鞠となのる彼女は福太郎とクロの手を両方いっぺんに握りしめて上下に大きく振った。

福太郎「わっ……」

クロ「なっ…」

小鞠「握手ってこうするんでしょ?出会った時の挨拶なんでしょ?私知ってるのよ!」

ぺらぺらとしゃべりながらぶんぶんと握手(?)を続ける。

福太郎「え、えーと……落ちついたら自己紹介をしてもらえるかな?」

小鞠「あ、私百々目鬼(どどめき)って妖怪なの。よろしくね。」

握手をやめ、どろんと変化を解いた。顔には大きなひとつの眼、そして首や手にもぱっちりとした無数の眼が現れた。

福太郎「ほー、すごいな……化けるん上手やし。人間にしか見えへんかったで!」

クロ「目以外は基本人間と同じか」

小鞠「あっちの世界でも人間の近くで生活してたから。ねえその耳についてるのピアスっていうんでしょ?」

小鞠は身を乗り出してクロの耳についているイヤーカフに手を伸ばす。

クロ「これはピアスじゃなくてイヤーカフだ。」

小鞠「いやー…?」

クロ「いいから、触ろうとすんな」

福太郎「まぁまぁ(この感じやったらすぐに現代にもなれそうやな…)」

コンコン!
由乃「こんにちはー。備品届けに来ました!」

小鞠「……」

由乃「あら、もう来てたのね。はじめまして!」

小鞠「なにこれ!」

由乃「へっ?!」

なにを思ったのか小鞠はダダッと由乃に近づいてスカートや服に顔を近づけてマジマジと見つめていった。

小鞠「こんな着物はじめて見た!かわいい!」

由乃「ちょっまっ……落ちついて!落ちついて!」

顔を赤らめて困ったような驚いたような顔をする由乃の手を握って小鞠は自己紹介をする。

小鞠「はじめまして!私は小鞠!あなたの着物に興味があるわ!!」

クロ「なんなんだ……ありゃ」

福太郎「着物……いや、洋服に興味があるんとちゃうかな。クロはズボンやし……まぁ、大丈夫そうやし。ちょっとお茶でも淹れよか」

クロ「私も手伝う」

福太郎「ん?」

クロ「洋服とかオシャレとかの話題は私にゃついていけねーし。」

福太郎「クロも女子力磨いたらええのに」

クロ「神力だけでじゅーぶんだ」

福太郎「……あるん?」

クロ「神さま舐めんな!」
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