第零夜『変わり始めた僕の日常』

何を作るか決まっていると、小一時間もしないうちに買い物は終わってしまった。まぁ、もともと、必要品以外買い歩いたり見て回ったりはしないのもあるのだけど。

今日は天気もいいし、少し街のなかを散歩するのも悪くないと、俺は買い物袋かたてに池袋の西口公園をぐるりと一周する。早朝で、ひとの数はまばらだった。夕方になると居酒屋の立ちんぼや外国人キャッチが右往左往する不思議な場所。ただ、こんな場所でも一カ月に一回は若者たちが占拠している。どーいうグループなのかは全然知らないが、カラーギャングというやつだろうか、銀色のバンダナやキャップを被った連中が集まって、なにかやってるのを通りすがりに眺めた事がある。

もちろん、俺にその類の知り合いはいないので関わりは無い。というか、一生関わりたくは無い。ぐるりと公園内を二周目の半分に差し掛かったくらいでパイプベンチに腰をおろした。
ただ歩いただけなのに汗の玉がプップッとひたいに浮かんだ。自分の体力が衰えているのか、ことしの気温が異常なのかと、天をにらんだ。
ひるむ事もなく太陽はサンサンと輝いてジリジリと身を焦がしてくる。まるで夏のようだ。
このまま座っていたら、俺は干物のようになるのだろうか。上から下へと視線を落とす。
水を落とせばいっしゅんで干上がりそうな熱もったタイルのうえを、列を作って歩くアリの群れ。

公園と商店街の歩道を行きかう人々と似ていた。違うのはこっちのアリは統率された一軍集団、あっちは各々が別目的な個々集団。
列でもここまで違いがでてくるのだ。しかし、だとしたら俺はどーなのだろうか。人の群れにも属せず、アリのように集団統率も取れない。

生きてる意味は本当に生きてるだけ。
俺は目を閉じた。いかん、いかん、休日の頭から何をネガティブな思考をしてるんだと首を振る。すると、目のまえに誰かが立ったような気配がした。足音もなにも聞こえなかったけど、確かに誰かがまえに立って俺を見ている。
ゆっくりと目をあけた。

足、女性の足だ。ブーツに赤い靴ひもでレースが軟らかく揺れている少女チックな物。そこから伸びる足は細く靴下もフリルがなびき、これまた少女チックだった
いったい誰なのだろうと視線をあげようとしたとき頭に声が落ちて来た。

「アナタの能力可愛いわね。」

心臓が大きく跳ねた。とっさに、俺は頭を振り上げるも、目のまえには誰も居ない。辺りを見回したが、近いところに女の姿は無い。

「……なんや、今の?」

この異常気象的な暑さにやられて白昼夢でも見てしまったのだろうか。俺は立ち上がってもう一度、辺りを見回した。やはり、少女チックな服装の人は見当たらない。なにか、妙な引っ掛かりが残ったが、忘れることにした。考えてもわからないことは解らないっと知り合いがいっていたし。適当に帰らないと買った肉がダメになってしまう。





アパートにもどると、ミツバが出迎えてくれた。寝起きなのだろう声にまどろみがある。

『福さぁん……おかえりなさいですぅ』

「ただいま。寝とっよかったんよ?」

『いえいえ~、また、すぐに寝ますから~。あ~福さんもいかがですかぁ?』

夕飯にはいくらなんでも早すぎるし、さっきの気味の悪い体験を忘れるには良いかもしれない。冷蔵庫に買い物袋語と買って来たものを詰め込んで、ミツバの後を追う。
ベランダの窓を全開にした四畳間に俺と彼は寝転がった。ときおり風が吹いて水色のカーテンが波打つ。

『福さん~。気持ちいいですね。』

「そうだな。ぽかぽかしてて気持ちい。」

天気がいいし布団を干してもいいかもしれないとポヤポヤ頭の中で考えてるとダレていたミツバが起き上り、頭元に座っていった。

『福さん、日向ぼっこするなら私もっと絶好のオススメポイント知ってますよ。』

自信満々の顔と日向ぼっこポイントに俺は食い付いて身体を起こしてきいた。

「ほほぅ、それ、どこですのん?」

トテトテとベランダの方へ出ていき、ミツバは何かに向けて前足を伸ばした。

『あそこです。』

椅子なんて置いてなかったはずだけどと思いながら、覗きこんでみる。そこにあったのは……室外機。そういわれてみて思い出した。ミツバはよくあそこのうえで日向ぼっこしてるのを見たことある。
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