第肆夜『福太郎の不思議な日常』

ー夢見長屋近くの畑ー

ラム「っで、落ち着いたところで……改めてアンタ達はなんなの?」

福太郎「越後のちりめん問屋……」

クロ「しつけぇよ。印籠持ってねーだろ」

福太郎「メリーちゃんやったらもっとるよ」

メリー「すぅすぅ……」

クロ「あの騒ぎの中、寝続けてやがったのかこの人形……」

ラム「なにそれ、呪術用の人形?」

福太郎「呪い人形が正解かな?」

クロ「サラッとひでぇなお前」

福太郎「冗談はさておいて……チンチンさん」
バチンッ!

ラム「ラム」

福太郎「痛いわぁ……ラムさん、もしかして昨日もここ通ったりしませんでした?」

ラム「通ったわよ。」

福太郎「その時、この札を振りまいていきませんでした?」

ラム「それは紙銭よ」

福太郎「紙銭?」

ラム「キョンシー隊を導くのに必要不可欠な法具っていえば分かりやすいかしら。お札とは違って呪文が記されていないでしょ?黄色の紙で、キョンシー隊の通行料として支払われる死後の世界での金銭よ。」

福太郎「これまかなあきませんの?」

ラム「撒いておかないとキョンシーに邪気が溜まったり、悪質な妖魔が寄ってくるのよ。」

福太郎「ふむ……ほんなら撒いて通った後に回収するんは?」

ラム「問題ないわよ。でも、そんなめんどくさいことしなくてもこの紙銭は雨に溶けて土にかえるのよ?」

福太郎「んー、そうなんや。せやけどここの近くに住んどる人が朝起きて札が散らばってて気味悪がっとるんよ」

ラム「うっ……」

クロ「それにいくら夜中だからってたまたま起きてて、妙な掛け声と集団で跳ねてるのを見たり聞いたりしたらさらに気持ち悪いし」

ラム「ううっ……ご、ごめんなさい……」

福太郎「あら、普通に謝られた。もっと、そんなこと知るかとか逆切れされるとおもたのに」

ラム「アンタ、私をどう見てるのよ。でも、正直キョンシーを運んだあと掃除するのはさすがに……」

福太郎「まぁ、今夜は俺とクロがそれはするんで。これからのことは考えてください。」

クロ「手伝うのかよ?!」

福太郎「んっ、乗りかかった船いうやん」

クロ「乗りかかってもねーし!」

ラム「それじゃあ行くわよ~。キョンシー様のお通りだ~」
シャン!

キョンシーA『……』
キョンシーB『……』
キョンシーC『……』
トンッ!トンッ!

クロ「貫徹じゃねぇだろうな……」




ー廃寺ー

ラム「はー、着いた着いた。はーい、みんなこっちよ中はいって~」
シャンシャン

キョンシーA『……』
キョンシーB『……』
キョンシーC『……』
トンッ!トンッ!ピタッ!

福太郎「うわ……なんやこれ」

クロ「臭っ……キョンシーだらけじゃないか」

ラム「あなた達もお疲れさま。ここはキョンシー達を一時的に保管してるの。最終的にはちゃんと埋葬するわ。無縁仏として集合墓地にだけど」

福太郎「それって道士のしごとなん?」

ラム「詳しいことは全部終わってから説明してあげるから、今連れてきたキョンシー達をあっちの壁際に運んで」

福太郎「え、そこ手動?」

ラム「うん。正直助かる。直立不動とはいえ人間て重いから」

クロ「色んな匂いが混じってきもちわりぃ……」
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