第肆夜『福太郎の不思議な日常』

ー池袋:西口公園ー

福太郎「……子供ンころね。俺は大阪に住どったんやけど、そんで皆であそんどる時の事なんやけど」

近衛「……」

公園のすみっこの方でお父さんに怒られとる子を見つけたんよ。その子は今にも死にそうなくらい泣いて反省しているだろうにお父さんは鬼みたいな顔でずーーっと

『迷惑カケルナ!迷惑カケルナ!』

って言うんです。

その子がなんで怒られとるんかわからんのに、その様子を見とるだけでモヤモヤしてきて……

『おっちゃんは誰にも迷惑かけたことないん?』

そういった瞬間におっちゃんは茹でたタコみたいに真っ赤になってビックリしたんよ。

近衛「!」

福太郎「あの時は幼いながらに「やっちまった!」って思ったかよな……ね」

近衛「タコ?なにそれ」

福太郎「そうタコ!……俺もそう思ったんやけどタコやった。そんで思い出したんやけどな、やっぱりあの時の子やったんやね。近衛さん」

近衛「……僕の両親は少し重い人だったんだ。父は一流企業で働いていて転勤も多かった。母は僕を産むまで教師をしていた。ずーっと「私たちの手を煩わせないで」って言われて育った。「迷惑をかけるな」が口癖だったよ。小さいころも成長してからも苦痛でしかなかった言葉なのに」

『お父さん遊んで』

『仕事なんだ困らせるな』

『何度言ったと思ってる!!迷惑をかけるな!!』

『ごめんなさいごめんなさい』

近衛「自分がされて悲しかったことを今は伊左衛門さんにしている。あの考えから逃げたくて歪業を選んだのに…意味がないな刷りこまれた者が抜けない」

福太郎「誰でも誰かに迷惑をかけとる、その分を誰かが支えるじゃアカンのか、な!」

なんて偶然なんだ…。涙で歪んだ視界の中で父を黙らせ笑いかけてきたあの笑顔。その時の掌年のひと言がなければ僕はきっと気づくことすらできなかった。

近衛「……なんで顔変わってないんだ…」

福太郎「え?」

近衛「歪業よりカウンセラーの方があってるんじゃないですか?」

福太郎「え?」

由乃「いた~~……捜しましたよ!」

福太郎「あれっ由乃ちゃん?」

由乃「街中でひとりで泣いていたので連れてきました。」

伊左衛門「ずずっぐすっ、すびっ」

由乃「買い物をしてたら狸が街を走っててもしやと思って捕まえたら伊左衛門さんでした」

福太郎「そら…お疲れさんです…」

伊左衛門「あざびざんっ!!ズビマ゛ゼン!!お世話になっているのに悲しくて悲しくてうっがりとでも酷い事を!!」

近衛「本当によく泣きますね。カラッカラに干からびないか心配なくらい……謝るのは僕の方です。馬鹿のひとつ覚えみたいに迷惑迷惑と…自分の考えを押し付けてあなたを傷つけた。」

伊左衛門「……」

近衛「歪屋を僕から御堂さんに移しませんか?恥ずかしい話、理解していてもひとは急に飼われません。また自分の考えを強制しないように」

伊左衛門「近衛さん……?でも、ぼ、僕は…僕は抜けているので旭さんくらい厳しい方がちょうどいいと思うんです」

近衛「!!」

伊左衛門「旭さん!仲直りしませんか?狸の仲直りと言えば空の散歩です」

伊左衛門は人型から狸の姿に戻るとむくむくと膨らみ始めた。まるで風船のように大きく大きく。

近衛「ちょ、え?膨らむの!?まさか僕を乗せて一緒に!?ていうかそんな大きく気球みたいに!」

伊左衛門「僕は抜けているのでよく分かりませんが僕は関わる人はみんな友達だって思っています。友達なら仲直りしてまた一緒に仲良くしたいんです。」

近衛「いや…誰かに…迷惑が…」

福太郎「ええやないですか!迷惑がかかったらかかったで旭さんが支えてあげたらええやないですか。」

近衛「福太郎…さん」

福太郎「旭さんが支えてあげたらううんですよ?」

近衛「(迷惑をかけても支える…)い……伊左衛門さん!連れていっていただけますか!」

由乃「旭さんどうしたの?」

福太郎「んー、ふふ、どないしたんやろね」

近衛「どう乗ればいいですか?」

伊左衛門「よじ昇ってください」

旭が背に乗ると、大きく膨らんだ気球のような伊左衛門がふわりと浮いた。そしてゆっくりと高く高く上昇していく。

由乃「近衛さんと伊左衛門さん大丈夫かな」

福太郎「きっと大丈夫やろ。旭さんは真面目な人やからずーーっと辛かったんかもなぁ……さて、俺らも帰りまひょか」

由乃「???」

福太郎「ははっ。」
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